進むタイヤの「2つの」大型化! 意外にも公道では見た目以外のメリットは少ない

ビジュアルは良くなってもハンドリングなどは悪化することも

 どういうわけか知らないが、昔からクルマというのはタイヤがデカイとカッコ良く見えるらしい。そんな伝統に則ってか、最近は大径タイヤが増えている。この「大径」には、2通りの意味があり、ひとつはタイヤの外径の拡大。もうひとつはホイールサイズが、18インチ、19インチ、20インチと大型化してきたこと。

 クラウンあたりの標準的なタイヤサイズ、215/60-16だとタイヤの外径は664㎜。ところが新しいレクサスのLS500hだと、245/50-19でタイヤ外径は727.6㎜もある。20インチタイヤを履く日産GT-R(R35)は、フロントが255/40-20で712.0㎜、リヤは285/35-20で707.5㎜と、いずれも外径は700㎜以上とかなり大きい。じつは、こうしたハイパフォーマンスカーだけでなく、普通車も小型車も軽自動車も、このところ車種を問わず、タイヤ外径は大型化する傾向にある。

 なぜかというと、タイヤの負荷能力は外径に比例するから。つまり、車体が大きく、そして重くなるのに合わせて、最大負荷能力の高いタイヤ=外径の大きなタイヤが必要とされるようになったため。

 また、ほかの条件が同じならタイヤの外径が大きくなると、ギヤ比が高くなるのと同じなので、高速巡航時の回転数は低くなり、加減速が少なければ燃費もよくなる。反面、加速は鈍くなり、街中ではかえって燃費が悪くなるほか、バネ下重量が重くなって接地性も乗り心地も悪くなる。

 もうひとつの大径化、いわゆるインチアップは、タイヤの外径を変えずにホイールのリム径を大きくするもの。外径を変えずにホイール径を大きくするということは、その分必然的にタイヤの厚みが薄くなる。つまりタイヤの扁平化。昔は、この低扁平タイヤに規制があり、扁平率60%の60タイヤが認可されたのは1983年。50タイヤと55タイヤが認可されたのは、昭和最後の1988年。45タイヤは1994年から。

 ちなみにR32GT-RのVスペックは1993年デビューなので225-50- 17だったが、翌年登場したVスペックIIは、245/45-17を採用している。その後の規制緩和で、現在はタイヤ外径が変わらなければ、超扁平タイヤも認められている(フェンダーからはみ出るタイヤや、車体に干渉するサイズはNG)。

 このような大径ホイールが求められるようになったのは、ブレーキローターとキャリパーを大きくして、ブレーキの熱容量を増やすため。

 そのほかには、ホイールが大きいほうがカッコ良く見えるという主観的な問題だけといっていい。反対にデメリットはたくさんある。例えば、

・操作に対する応答性がシビアになる
・乗り心地が悪くなる(バネ下重量が重くなるのと、サイドウォールが硬くなるため)
・(タイヤが太くなって)路面の凹凸を拾いやすくなる
・路面追従性、直進安定性が悪くなる
・タイヤ単価が高くなるので、ランニングコストが上昇
・タイヤが薄いので、縁石などでホイールを擦るリスクもアップ

 など。なかでも、操作に対する応答の良さはメリットだと思っている人も多いようだが、敏感なハンドリングがいいというのは誤解しているケースが多い。俊敏な反応は、限界を超えたときに突然グリップを失うこととトレードオフなので、危険度が高い上に、コントロールする楽しみも奪われてしまう。あのF1でも2014年に18インチのタイヤをテストしたが、2018年も従来からの13インチを継続している。

 チャンピオンチーム、メルセデスAMGのエンジニアは、F1マシンのインチアップについて、「グリップ面でいいことではない。ホイールが大きくなるとグリップが低下するし、重量が大幅に増える。だからパフォーマンス面でいいことはない」と断言。F1参戦時代のブリヂストンのリーダーだった浜島裕英開発本部長(当時)も、F1マシンは13インチ用の設計なので、1インチでもアップするとピーキーになり過ぎ、スピンばかりしてまともに走れなくなるとコメントしている。

 というわけで、標準タイヤ以上に大きいホイールを履きたい人は、ドレスアップは◎。そのほかの効果については、あまり期待できないということも覚えておこう。


藤田竜太 FUJITA RYUTA

モータリングライター

愛車
日産スカイラインGT-R(R32)/ユーノス・ロードスター(NA6)
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