プリウスに暗雲! 2代目・3代目オーナーが現行モデルに乗り替えたがらない本当の理由とは

台数を見ると成功しているように見えるが内実は深刻

 自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計によると、2017事業年度(2017年4月~2018年3月)の軽自動車を除く登録車のみでの車名別販売ランキング第1位は14万9083台でプリウスとなった。

 2位のノートとの差は1万7964台となっており、昨年秋に発覚した日産自動車の完成検査不正問題で一時的な生産停止などがなければ、おそらく2017事業年度販売ナンバーワンはノートになっていたというのが一般的な捉え方となっている。

 プリウスは2016事業年度(2016年4月~2017年3月)、2015事業年度(2015年4月~2016年3月)でも登録車販売ナンバー1になっている。ここまでだと、「プリウスは相変わらず良く売れているなあ」ともいえるのだが、注目すべきはその中身である。

 前述したとおり、2017事業年度は2位のノートとの差は約1.8万台であったが、2015事業年度は2位アクアとの差は3万6449台、2016事業年度も2位はアクアだが、その差はなんと6万9500台となっている。つまり同じトップでも、2017事業年度は2位に圧倒的な差はついておらず、明らかにセールスパワーが過去2事業年度より落ちているともいえるのである。

 2015事業年度は現行型の4代目プリウスが2015年12月に正式デビューしており、先代型との端境期であった。そのためとくに2015年4月から2015年11月には販売台数の大幅ダウンが続いたものの、現行モデルが発売となった2015年12月から2016年3月の販売台数が急回復し、トップとなっている(3月は3万台強を単月で販売した)。

 2017事業年度の販売台数をベースにすると、月販平均販売台数は約1.2万台なので、統計数字上だけみれば、今もなお立派なヒットモデルといえる。ただし、現行型はデビューからしばらくは販売絶好調であったが、短期間で販売の後伸びが悪くなり、2016年度後半から失速が目立ってきた。

 販売現場で聞いたところでは、「デビュー当初はリチウムイオン電池搭載車の納期遅延なども目立ち大量のバックオーダーを抱えたのですが、その後受注の後伸びが続かず、2016事業年度後半にはバックオーダーを食い尽くし(自販連データは登録台数がベースとなる)、10月からは販売台数が一気に落ち込みました」とのことであった。

 現行モデルは先代モデルに比べると明らかに販売に勢いがない様子がわかる。これについては、先代のころに比べるとトヨタ車のラインアップ内だけでも、明らかにハイブリッドモデルが増えており、もちろん他メーカーでもディーゼルやEVなども含めてエコカーのラインアップが増えているので、選択肢が広がるなか、先代型のように極端に受注が集中しなくなったことも影響しているようだが、話はそれだけではないようだ。

 現行モデル登場直後に、「かなりクセ(個性的)のある外観」という声も多く聞かれた。筆者としては、より力を入れたい北米市場へ向けてのものなのかと考えていたが、新型プリウスが北米で世界初披露された2015年秋に、アメリカでもとくにエコカーがよく売れる南カリフォルニアを訪れて話を聞くと、「新型プリウスのエクステリアデザインはやりすぎ」といった話を聞いて驚いてしまった。

 その年の末にプリウスは日本でも現行モデルが正式デビューし、本格販売が始まっている。前述したように、発売当初こそ長期の納期遅延なども発生するほどの人気を見せたが、半年少々で失速傾向が目立ってきている。

 そのあたりを再び販売現場で聞いてみると、「先代モデルを所有するお客様はご存じのとおりかなりいらっしゃいます。当然ながら先々代モデルのオーナー様も含めて代替え促進を行うのですが、『今回だけは遠慮させてくれ』というお話をされるお客様が目立ちます。とくにエクステリアデザインが個性的すぎるという理由が多いですね」とのことであった。

 トヨタディーラーの強みは、長い間乗り換えを続けることで、担当セールスマンと顧客との信頼関係が厚くなり、よほどのことがない限り「●●さん(セールスマン)が勧めるなら」と問題なく代替えしてもらえるのだが、現行プリウスはこれがなかなか当てはまらないというのである。「メーカーもディーラーも、莫大な数にのぼる先代プリウスのオーナーに代替え促進をかければ相当数の受注確保ができると考えていたようなので、お得意さんのなかで代替えに難色をしめすひとが目立つことは想定外だったようです」とは、業界事情通氏。

 先代となる3代目のころには、物珍しさから購入したひとも多かったが、実際乗ってみると「ボディサイズが大きい」と、アクアやカローラハイブリッドなどへダウンサイズして代替えするひとが目立っていた。

 またトヨタのハイブリッドは燃費性能などを追求するあまり、「クルマ側のエコ運転のための制御が目立ちすぎる」など、クルマ本来の“操る楽しさ”が感じられないといった声も多く、そのようなひとたちが欧州ブランドのクリーンディーゼル車に流れるといった傾向もみられた。車格は若干異なるが、“物珍しさ”からいけばノートeパワーの登場もプリウスの販売状況に少なからず影響を与えたはずである。

 2018年3月末から4月上旬にかけて開催された、ニューヨーク国際モーターショー(以下ニューヨークショー)において、2018年1月に開催されたデトロイトショーでプロトタイプが発表された、ホンダ・インサイトの市販モデルがデビューした。そのエクステリアは“シビック・ハイブリッド”といってもいいぐらいオーソドックスなスタイルであることが、メディア関係者の間で話題となっている。

 このあたりを業界事情通氏は、「インサイトは初代はもちろんのこと、2代目もプリウスに似た独特のスタイルを採用していました。3代目の開発にあたり、歴代どおり『個性的スタイルにすべきか』、それとも『オーソドックススタイルでいくべきか』という点で社内ではかなり議論になったようです」と話している。

 北米市場ではガソリン価格の安めの安定傾向が続いたり、好景気により、エコカーへの感心も薄れており、さらにエクステリアも影響してか現行プリウスの売れ行きは北米でもけっして絶好調というレベルではない。そのあたりも今回の3代目インサイトに多少ならずとも影響を与えているのは間違いないだろう。

 モデルによっては、デビュー直後に購入すると納車まで半年ほどかかることもあった現行プリウス。しかし現状ではディーラーでも在庫を多くストックしている状況で、1カ月以内で納車が可能となっている。

 前段で「統計数字上だけみれば立派なヒットモデルとなっている」としているが、在庫状況に余裕もあるので、カーシェアリングやレンタカーなどのフリート販売の積極化や、自社登録による登録済み未使用車(未使用中古車)や、代車や試乗車で短期間使用して中古車市場へ流すといったパターンも目立ってきた。さらにトヨタ系ではない大手中古車販売グループの展示場にも平気で登録済み未使用車が並ぶようになってきた。

 つまり統計上はヒット車レベルの販売台数を確保しているが、その内訳をみるとより苦戦状況なのは明らか。マイナーチェンジではPHVのスタイルに近くなるという情報もあり、これが真実ならばさらにアクの強いエクステリアになってしまう。販売苦戦傾向について出口がなかなか見えない状況になっているといえよう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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