ビッグネームでもダメ! クルマはいいのにデザインで売れない残念な現行車5選

走りと機能を追究したのに見た目で勝るライバルに負けたモデルも

 1950年代まで遡ると、デザインが奇抜で販売不振に陥った車種は数多く存在する。初代日産ブルーバードとの戦いに敗れた丸みのある初代トヨタコロナ(1957年)、尻下がりといわれた2代目日産ブルーバード(1963年)、スピンドルシェイプの4代目トヨタクラウン(1971年)などは、デザインが発展途上の段階にあり、見栄えが悪く売れ行きに影響を与えた。

 しかし最近はデザインの失敗作が減った。クルマ造りの経験を重ねて「売れるか売れないか」の見極めが可能になったからだ。それでも稀に「デザインで売れないクルマ」が登場する。商品開発がマンネリになって販売が伸び悩み、突破口をデザインに求めた場合に多い。

 とくに難しいのがフロントマスクだ。クルマの前側の断面形状は大半が横長で、背の高い車種は正方形に近い。ここをいかに造作するかが腕の見せどころだが、ボディ側面との調和を図るのも難しい。そこでデザインで販売の伸び悩む現行車種を取り上げるが、造形的に失敗したクルマは、機能にも欠点を抱えることがある。外観は車両のコンセプトや機能の象徴でもあるからだ。商品企画の根幹が曖昧だと、デザインと機能の両方で失敗してしまう。

1)トヨタ・ヴィッツ

 2001年以降は、販売面でホンダ・フィットに負けている。とくに後席の居住性や荷室の使い勝手が見劣りした。現行型は2010年に発売されたが、先代型に比べて内外装の質感、乗り心地、ノイズが悪化して売れ行きを低迷させた。

 そこで2014年と2017年のマイナーチェンジでは、前述の欠点を改善すると同時に、フロントマスク下側のグリル開口部を拡大させてアクを強めた。一方、ボディサイドは発売当初と同じスッキリした形状だからバランスが極めて悪い。どんどん深みにハマっていった。

2)ホンダ・フィット

 ヴィッツを窮地に負い込んだフィットも、現行型は売れ行きが低調だ。初代と2代目からの脱却を図り、シャープなデザインで先進性を表現したが、一般ウケがしにくい。コンパクトカーは法人需要も多く、個性的な造形は敬遠される傾向がある。ハイブリッドのリコールが相次いだことも災いした。2017年の登録台数は同じホンダのフリードよりも少ない。

3)日産マーチ

 現行型はタイで生産される輸入車だが、生産国の問題ではなく、基本的な造形や運転感覚を含めた質感に不満があって売れ行きが伸び悩む。丸みのある外観は可愛いともいえるが、デザインが大味で、2/3代目(先代型と先々代型)に比べると明らかに造形のレベルが退化した。

 それにしてもヴィッツ/フィット/マーチと、コンパクトカーの主力車種は、デザインに不満が伴って売れ行きを落としている。これが軽自動車に人気を高める余地を与えてしまった。

4)トヨタ・プリウス

 2代目と3代目で、ルーフを後方に向けて下降させるプリウス独自の5ドアハッチバック形状を確立させた。4代目の現行型はフロントマスクに個性を持たせたが、デザインが不評で売れ行きが伸び悩む。2015年12月に発売され、2017年(1〜12月)の登録台数は、対前年比が64.8%であった。それでも小型/普通車では1位だが(プリウスαとPHVを含む)、プリウスとしては不本意だろう。C-HRが2016年12月に発売され、ユーザーを奪われた面もある。

5)ホンダ・オデッセイ

 現行型はフラットフロア構造と低床設計を両立させ、3列目シートの居住性を大幅に高めた。座った時に膝が持ち上がらず、3列目を含めて居住性は国産ミニバンのナンバーワンだ。ヴェルファイア&アルファードは、3列目に座ると床と座面の間隔が不足して、サポート性も良くない。広さを競えばヴェルファイア&アルファードだが、座り心地と居住性ならオデッセイが勝る。

 ところがオデッセイはサッパリ売れない。全高が1700mmを下まわるからだ。現行オデッセイは低床設計で、十分な室内高を確保しながら天井を低くできた。この開発方針は、機能的には正しい。クルマの天井は十分な室内高と最低地上高を確保できれば、低いほど優れているからだ。天井が低ければ低重心になってボディが軽くなり、走行安定性、乗り心地、乗降性、動力性能、燃費など、さまざまな機能を向上させる。

 しかし「売れるか売れないか」となれば話は全然別だ。ミニバンは今ではファーストカーの代表格だから、ユーザーは外観が立派で存在感が強く、周囲の人やクルマを見降ろせる運転感覚を求める。ヴェルファイア&アルファードは、ここを上手に開発した。ヴェルファイア&アルファードも現行型でプラットフォームを刷新したから、床を低く抑えることも可能だったが、あえて持ち上げた。機能ではなく、売ることを優先させたからだ。

 基本的には、今は機能の優れたクルマが好調に売れるが、ミニバンとSUVは例外だ。背の高さ、見栄えの立派さが求められる。正義が勝つとは限らない、商品開発の難しさがある。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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