ホンダ・ビートオーナーがS660を試乗すると

ホンダ・ビートオーナーがS660を試乗すると

 乗りたくなかった……。これが素直な感想。「ビートはF1譲りのMTREC(マルチスロットル)が付いているからね」「NAで64psっていう超高回転型エンジンを載せた孤高の存在だから」。ボクを含めたビート乗りはこんなセリフを吐く。少なからず趣味性の強いクルマは、デザイナーが誰だとか、会社の立ち上がりがどうだとか、レースシーンでどうだったとか、どこそこの国で軍が採用してるだとか、オーナーを心酔させる背景をもっているものだ。ビートもまた然り、なのである。

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S660
そもそもビート乗りのボクからするとビートじゃないところが気に入らない。なんで「S」なんだよ、と思う。ホンダの過去のSシリーズはさらにコアなファンをもっていて、そうしたオーナーやファンからすれば、素晴らしい! となるのかも知れないが、いちビートオーナーのボクはヘソを曲げてしまう。

 ところがだ、走ったらそんなことがどうでもよくなってしまう。じつに楽しいのだ。時代の流れといってしまえばそれまでだが、首都高の継ぎ目でねじれに捻れるビートのボディに比べて、S660はなんとガッシリしていることか。もちろん現代のクルマのなかで比べても、剛性は高いほうだといえる。オープンカーでこれなのだから素晴らしい。

 エンジンもいい。当たり前だがビートに比べれば圧倒的に速い。音はさすがに軽自動車らしさ全開だが、そんなものはビートで慣れている。やっぱりターボのトルクは偉大だと心底感じ入ってしまうのだ。データを取ったわけではないが、ターボを積む軽自動車(ケータハム セブン160を除く)のなかでももっとも速いのではないかと思う。

 今回は6速MTに乗ったのだが、シフトの感触はビートのほうがいい。S660も文句はないが、ボクはビートのほうが剛性感を感じる……と思いたい!
もうひとつ、アジャイルハンドリングアシストなるデバイスがS660には装備されているという。要はコーナリング時に4輪独立でブレーキを自動操作し、ヨーを発生させて姿勢を制御しようというものだ。ボクは基本この手のデバイスが嫌い。公道で乗っている限り、姿勢は自分で制御すればよし! いくらよく曲がっても、少しでも違和感を感じると楽しさがそがれると思うのだ。

 ところが、ボクのセンシング能力の低さなのか、約一週間S660に乗り、返却して数日後、カタログを見て「あっそういえばそんなデバイスついてたな」って思い出す始末。もの凄く自然に働いているデバイス……だと思う。何しろ気がつかなかったのだから。ちなみにホンダでいえばVSAなどの、危険回避の横滑り防止装置の類いは嫌いもへったくれもなく装着に大賛成です。

  

 さて、使い勝手の面ではS660、正直キツイ。いや、ひとりで乗っているぶんにはまだOK。ところがふたりで乗ると、室内に小さなバッグを置くスペースすらない。ビートは屋根を閉めた状態ならヘッドレスト後方(要は屋根を畳む場所)が使えるので問題なし。

 ややカッコ悪いがトランクリッド上に自転車のような荷台だって付けられる。ビートにはドリンクホルダーがないが、S660にはひとつある。でもまぁ不便なことこの上ない場所なのでここはほぼ互角だろう。理想的にはルーフをしまうボンネット内のボックスが倍ぐらいの容量だと、オープンにしていてもバッグ程度なら入るのに……と思うのだが。

 ルーフの開閉は、「畳むだけのビートのほうがラク」と思っていたがそうでもない。取り外す方式のS660は存外にラク、というよりまったく苦にならない。むしろビートのリヤスクリーンを外すジッパーのほうが面倒だったりする。

女性でも慣れれば1分半で取り外し&収納可能なソフトトップ

 さて、まったくもって悔しい話だが、S660は走ると思わずニヤけてしまうほど楽しい。さらにいえば常に曲がっていたくなるほど、コーナーが気持ちいい。ギヤを変えたくて加減速を望んでしまうほど、MTが苦にならない。実際ボクはすっかりトリコになってしまい、本気で欲しくなってしまった。だからビートじゃなくてS660なる名前が付けられたコイツに乗りたくなかった……というワケだ。

 でもS660に乗ったことのあるビートオーナーなら感じると思うが、ビートを売ってS660に、とはならないだろう(多分)。余裕があれば両車を並べて日替わりで楽しみたいと思うハズだ。それは先に述べたクルマの背景の違いもあるが、何より走りの楽しさのベクトルが違うからである。

 ある意味、登録車(普通車)のスポーツモデルに挑戦したかのようなS660の走りに対し、ビートはあくまで軽自動車のワクのなかで、「ホンダはここまでデキるぞ」と誇示したような存在なのだ。

 実用面があまりにも厳しいだけに、購入するなら実車をみて触ってじっくり検討した上で決断(いずれにしても納車は遙か先だし)してほしいが、走りでいえば間違いなく買いだ。ビートオーナーも余裕があるなら増車すべし!!

  

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