開発のキーマンが日本人を長年魅了するカローラの最新モデルに込めた思いとは (3/3ページ)

五感に訴えることのできる走りをギリギリまで粘って仕上げた

 カローラ スポーツの開発では、ショックアブソーバーも新開発。約600パターンにおよぶオイルや構成部品などの組み合わせについて走行実験を実施し、質感の高い快適な乗り心地と、操舵応答性の高次元での両立を目指した。ここで尽力した小林範彦さんは次のように語る。

「新型車の開発でショックアブソーバーまで開発するというのは珍しいケースです。実際、当初は一般的な開発のようにチューニングを主とした対応を考えていました。ですが、当初掲げた目標が非常に高かったため、チューニングだけでは納得できる走りが実現できず、異例ではありますが、開発の途中から新規開発をすることに決めたんです」

「しかも今回はアブソーバーのオイルもスペシャルなものにしています。また、同じプラットフォームを使っているプリウスやC-HRよりも剛性をさらに向上させ、静粛性も上がっています。より静かな乗り味は、走っているときのゆとりや安心感に繋がりますし、心理的な疲労の軽減にも効くはずです。五感に訴えかけられる乗り味を、開発期間の最後の最後まで粘って仕上げました」

 乗り味を磨き上げる過程では、女性の視点も数多く生かされている。開発メンバーのひとりである七里文子さんは、社内でのテストドライブの上級ライセンス保有者でもある。

「ドライビングポジションや、運転中の目線や視界などについて、さまざまな提言をしました。女性と男性とでは体格も力も違います。いいドライビングポジションや、身体にしっかりフィットしてホールドしてくれるシートならば、操作する力も軽くてすみます。50〜60人の女性社員にも意見を聞くなどして、体格差による目線の高さの違いも含めて、安心・快適に運転できるクルマを目指しました。女性が運転しやすいクルマは、結果的に男性にとっても運転しやすいクルマになるんです」

 トヨタの国内モデル初となる「iMT(インテリジェント・マニュアルトランスミッション)」の設定を用意したことも、開発チームがどれほど走りに注力したかの証と言えよう(※iMT搭載車は8月発売)。開発メンバーの上田泰史さんに伺った。

「通常のMTと変わらずに操作できますが、ドライビングモードをオンにすることで、シフトダウンの際に回転数を合わせるなど、お客さまの操作に合わせて発進や変速をアシストします。MTが久しぶりの人だけでなく、MTが未体験という若い方にもぜひ乗っていただきたいですね。パワーユニットに関しても、1.2Lターボや、1.8Lハイブリッドなど、名前こそプリウスやC-HRで使われているものと同じですが、たとえば1.8Lハイブリッドでは走り出しのリニア感にこだわったアクセルペダルの適合など、静粛性も含めて新型カローラ独自の気持ちよさを追求しています。もちろん、高い燃費性能も両立しています。カローラにとって環境性能は高くて当たり前、その先の気持ちよさにこだわりました」

 若い方にも、という言葉があったが、新型の開発では、「次の50年に向けて、カローラを若い人たちに」というテーマも掲げられている。11代目カローラのユーザーの平均年齢はアクシオが約70歳で、フィールダーでも約60歳だ。高齢者のユーザーが多いクルマと見ることもできるが、別の見方をすると昔からのファンをしっかりと魅了し続けているクルマと言うこともできる。実際にカローラというブランドに高い信頼を感じ、カローラ一筋のカーライフを送っているユーザーも少なくない。

 社会の価値観がすさまじい勢いで多様化している現代において、これほど息の長い愛され方をしているのは、カローラというブランドのひとつのすごさと言えるのではないだろうか。

「そう言っていただけるとうれしいですね。この新型は、そうした今までのお客さまも大切にしながら、日本にはカローラというクルマがあるんだということを、若い人にもっともっと知ってほしいという想いも込めて開発しました。じつは、カローラの開発責任者を任命されたときに、いろいろな自動車雑誌などをあちこちで探して、歴代カローラの記事を読みまくったんです」

「歴代のなかでは、とりわけ初代に強烈な印象を感じました。全面に打ち出されたスポーティさにも惹かれますが、空力を意識した形状でボンネットのふくらみを設計したり、コラムシフトが当たり前だった時代にいち早く4速のフロアシフトを搭載するなど、先進性にも目を見張るものがありました。当時の若い人たちのなかにも、この初代でクルマの楽しさを知ったという方も多かったはずです。開発プロジェクトを終えた今、あらためて振り返ってみると、私のなかに無意識のうちに原点回帰という気持ちがあったのかもしれませんね」と、小西さんは感慨深げに振り返る。

 姿形は変わっても、時代が求めるものをいち早く取り込んで進化を続けてきたというカローラのDNAは、新型カローラ スポーツでも変わることなく継承されている。これまでの50年と、これからの50年。12代目となる新型は、カローラの歴史と未来をしっかりと感じ取ることのできるクルマと言えそうだ。


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