元レーシングドライバーが斬る! 続々登場のパワーエリートSUVはスポーツカー並に走れるのか? (2/2ページ)

どんなにパワーがあってもボディ形状の不利は覆せない

 パワーエリートのスーパーSUVは加速場面においては強力だ。直線加速、コーナー脱出時の加速性能も高い。4WDの駆動システムを装備しているためトラクションが強力でウェットにおいても加速性に衰えはみせない。

 国産モデルにはFF(前輪駆動)のSUVが多くラインアップされているが、それらは正直走りの面では話にならない。最低地上高を活かした悪路走破性も最大限発揮できず見た目だけの論外な存在だ。だが欧州の本格的スポーツSUVは4WDシステムに電子制御サスペンション、トルクベクタリングなど高度な機能を盛り込み、ハイパワーをしっかり走りに活かす機能が与えられているのが常識。

 しかし、どんな機能が与えられていても、物理的な限界値が変わるわけではない。タイヤが路面をしっかりホールドしグリップを発揮できているうちはいいが、インリフトを起こしたり内輪接地圧が低下したりすれば、そうした機能は活かされなくなってしまう。

 それを避けるために、スーパーSUVの多くは極太のアンチロールバーを備えコーナリング時の車体ロールを極力抑え、4輪が常時接地するフラットライド化を図っている。それでもやはり限界が高まるわけではないのだ。

 ライドハイトが大きく、車高が高いスーパーSUVはつまり重心が高い。最近はクーペボディにしてルーフ高を抑え低重心化を図っているクロスオーバー系スポーツSUVも増えているが、それでも本格的な通常のスポーツカーようなコーナリングは不可能だ。

 エンジンの搭載位置が高い段階で絶対的な重心高が高まる。タイヤの接地点から重心位置までの距離が大きく高ければロールモーメントが強く生じ横転モードに陥りやすい。アンチロールバーでロール量を抑えても、今度はタイヤグリップ力がロールセンターに下方向から加わるジャッキアップ現象が発生し、車体全体を持ち上げてしまい、タイヤ接地圧を低下させる。このように車高の高いスポーツSUVはどんなにパワーがあっても、コーナーを低重心のスポーツカーのように攻めて走ることはできないのだ。

 実際にサーキットのスポーツ走行や走行会などスポーツSUVで参加するユーザーが増えてきているが、まわりを走る低重心スポーツカーとは、コーナーでの能力の差が大きくあることを理解して参加すべきだろう。

 コーナーで不利なはずのスポーツSUVにコーナーでかわされてしまったり、追いつけない名ばかりのスポーツカーが存在するのもまた事実。スポーツカーの定義は「ハイスピードで意のままに操れること」だが、それはスキルの高いドライバーが正しいドライビング操作をしていることが前提条件で、実現するのは通常のクルマでも難しい。その定義に従えば、SUVでスポーツ性を謳うのは無理がある、というのが結論だ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
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趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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