BMWとの共同開発でもトヨタらしさを存分に表現! 新型トヨタ・スープラのメカニズムに迫る (2/4ページ)

あのレクサスLFAを凌ぐボディ剛性を手に入れた

 そして2013年には、最初の試作車ができあがってくる。しかし、その前にやるべきことがあった。それは性能や品質面での目標設定だ。ここで力を発揮したのが薮木寿一さんだ。

「わかりすいところでは、まずライバルを設定することがあります。新型スープラでは、ポルシェ・ケイマン(当時は水平対向6気筒エンジンをミッドシップに積んだ2シータースポーツカー)をライバルとして想定しました。エモーショナルな表現をすると、スポーツカーらしい挙動、手応えのあるドライビングが新型スープラでは必要な条件と考えたのです」と薮木さんは語る。

 初期段階から直列6気筒エンジンを積んだFRスポーツカーというスープラの伝統を受け継ぐパッケージングは決まっていた。2シーターと割り切ることで実現した2470mmというショートホイールベース、コーナリング性能に大きく影響するワイドトレッドや低重心、そして前後重量配分の好バランスも初期の設計段階から織り込まれている。むしろ、新世代スポーツカーの共同開発というプロジェクトがあったからこそ、理想を追求したまったく新しいプラットフォームを開発することができたという面もあるだろう。その後、新しいプラットフォームに基づいた試作車があがってくる。

「試作車といってもクオリティが高く、運転してみても非常に高いレベルにあると感じました。大きな課題はないと思えるようなレベルに仕上がっていたので、順調なスタートという印象だったのは事実です」と薮木さんは語る。

 こうして試作車をベースにしながら具体的に“スープラ”として煮詰めていくことになる。その段階から、操縦安定性などの運動性能に関わる川崎智秀さんが参画する。

「私も非常に素性のいいプラットフォームというのが第一印象でした。スープラを作り上げるためのスタート地点としては、十分に高いレベルにあったと感じました」と川崎さん。「完成度が高いというのは同意します。ただし、あくまでもスタート地点としてのレベルの高さであって、課題はいくつもありました。ハンドルのフィーリング、乗り心地などは当然ながら煮詰める必要がありました。また、ATのシフトフィーリングはステップATとしては十分だったかもしれませんが、ライバルとしてケイマンを想定していましたから、ポルシェのPDK(ポルシェ製デュアルクラッチ式AT)と比べるとまだまだという印象でした。また、エンジンサウンドについてもスポーツカーとしては十分とは言えませんでした」と思い出すのは薮木さんだ。

 この頃、ボディ関連でも課題がクローズアップされていた。それは軽量化についての問題だ。それなりに市販バージョンが見えてきた段階で、まだ目標重量に対して20kgも届いていなかったのだという。いまさらカーボンボディにしたり、軽量合金に置換したりするのも難しいタイミングでのマイナス20kgはかなりハードルが高い。「ですから、もう一度図面を見直して、どこか改善できるポイントが見つからないか、探したのです」というのは石川さん。

「BMW側でも十分に検討したでしょうから、トヨタのエンジニアによるセカンドオピニオンといったところでしょうか。こちらとしても設計図をくまなくチェックして、なにかできることはないかと必死に探しました。必要な強度や剛性を満たしたうえで、軽量化できそうなポイントをいくつか見つけたので、レポートとして送りました」と石川さんは当時を振り返る。

 結果的に、6気筒エンジンモデルで1520kg、4気筒エンジンモデルでは1410kg〜1450kgという軽量ボディに仕上がった。初期段階のチェックだけでなく、開発の佳境においてもトヨタの知見がボディ設計に投入されているということは事実であろう。結果として新型スープラのボディは、石川さんが担当したというカーボンモノコックボディのLFAを凌ぐ高剛性を手に入れているという。エントリースポーツと言える「86」と比べると、じつに約2.5倍ものボディ剛性を手に入れている。スープラのボディの特徴はスチールとアルミニウムという異なる素材を接合したもの。まさに軽さと強さという開発初期からの狙いを両立するハイブリッドボディである。


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