一切の妥協を許さないピュアスポーツカーを! 開発責任者の多田哲哉さんが新型トヨタ・スープラへ込めた思い (2/4ページ)

人に寄り添うクルマづくりの本質はスポーツカーでも変わらない

 そんな多田さんにとって、スープラは特別な記憶があるクルマだ。トヨタに入社後、東富士研究所で実験に携わっていた多田さんが、製品企画部に異動するきっかけを作ってくれたのが、先代80スープラの開発主査である故・都築 功さんだった。

「1997年のことでした。てっきりスープラのモデルチェンジのために引っ張ってくれたのかと思って喜んでついていったんですが、一向にスープラの気配がない(笑)。で、痺れを切らして訊ねたら、『おまえが担当するのはラウム。お年寄りにも乗りやすいクルマだ』と言われて。ぼくはスポーツカーを作るために来たんですと生意気を言ったら、むちゃくちゃ怒られました(苦笑)。ラウムもスープラもクルマづくりの本質は一緒だと。そんなこともわからないやつにスポーツカーなんて一生作れないと」

 当時は、その言葉の意味がわからなかったという多田さん。だが、後年になって、乗る人に寄り添って考えることがクルマづくりの本質だと知ることになる。

「ラウムの開発中も、高齢者や障がいのある方にも寄り添って、そうした人たちにも乗りやすいクルマを作れと言われました。都築さんは私を、障がい者施設にも何回も連れて行ってくれ、モックアップを作ったときもドアを開けながら『ほら、こんなところで苦労するんだぞ』といった具合に、ひとつひとつ教えてくれました」

 スポーツカーにも、スポーツカーだからこその寄り添い方がある。それはスピードが出ればいいといった単純なことではない。

「今にして思えば、それが都築さんのおっしゃりたいことだったのだと思います」

 多田さんの想いは、新型スープラの随所に見つけ出すことができる。例えばボディのあちこちに設けられたダミーダクト。サーキット走行を楽しむ際に頭を悩ませるのがクーリングの問題だが、ダミーダクトは風が通るような位置を狙って設置されており、フタを取ればそのままダクトとして利用できる。ボディに穴あけ加工をする必要がないため、レースのレギュレーションにも合わせやすい。

「じつは、エンジンやミッション、デフ用のオイルクーラーを付けるためのドレインも切ってあるんです。プロが見たら、クーラー用のスペースを空けていることもわかるはずです。エンジンルームでも、タワーバーを取り付けるためのボルト用の穴があったり、バーが通る部分に合わせてパーツの配置を凹ませていたり。こうした工夫が最初からしてあれば、苦労しないでレースを楽しめますからね」

 乗降性を犠牲にしてまで高めたボディ剛性も、いわばスポーツカーならではの寄り添い方と言えるだろう。そう考えると、我慢を強いるイメージの「犠牲」という言葉が、このクルマにはふさわしくないことがわかるはず。新型スープラは、スポーツカーファンに徹底的に寄り添い、スポーツカーが求めるものを「我慢」することなく実現したクルマと言えそうだ。


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