レーシングドライバーが「乗ったら確実に欲しくなる」と断言! Honda eはただの電気自動車じゃなかった

2グレードあるベースとアドバンスの違いとは

 ホンダが初の電気自動車(BEV)Honda eを10月30日に発売する。ベーシックタイプで451万円。アドバンスグレードは495万円(すべて税込み)という価格設定だが、すでに予約受注で年間1000台の販売予定数に達し、現在は受注を停止している状況だ。ホンダは中国市場で先に「理念」というSUV・ヴェゼルをベースにしたBEVモデルを投入しているが、Honda eは欧州と日本の2地域専用モデルとして開発され、とくに市街地での扱いやすさを追求したという。さっそく試乗する機会を得たのでリポートしよう。

 ベースグレードとアドバンスの違いはデジタルルームミラーの有無と装着タイヤの差だ。

 ベースグレードでは前185、後205の16インチでヨコハマタイヤのブルーアースを履く。これがアドバンスでは前205、後225となり17インチのミシュラン・パイロットスポーツ4にアップグレードされているのだ。ここで勘のいい方なら「後ろのタイヤの方が太い」ということに気付かれるだろう。そう、Honda eはこう見えて後輪2輪を駆動するRRレイアウトを取っているのだ。外観デザイン的には軽自動車のN-ONEに似ていて、てっきりN-ONEをベースに電動化したのかと思っていたが、そうではない。実際Honda eを間近に見るとN-ONEよりも一回り大きい。車体のディメンションは全長3895mm、全幅1750mm、全高1510mmでN-ONEの全長3395mm、全幅1475mmより数値的にも大柄であることがわかる。

 にもかかわらず、最小回転半径は4.3mに抑えられていてN-ONEの4.5mより小回りが効く。RRレイアウトを採用したのはじつはこの取り回し性を追求するためだったのだ。RRレイアウトで駆動用モーターをリヤアクスルに置くことでフロントの空きスペースが大きくなり前輪に45度の最大操舵角を与えることが可能となった結果の最小回転半径なのだ。開発当初はフロントモーターのFFレイアウトで検討を進めていたそうだが、大きな操舵角を与えるのは厳しい。

 なにせ315N・mの大トルクを瞬時に発揮できる電動モーターを搭載するのでドライブシャフトやジョイント部の剛性や耐久性の確保が難しくなる。加えてモーターだけでなくコンバーターやPCU(パワーコントロールユニット)を搭載し、前面衝突性能クリアしていくと全長は前方向にもっと長くしなければならなくなる。するとフロントオーバーハングが大きくなって、ますます小回りが効かなくなるというスパイラルに陥ってしまうのだった。

 そこで開発陣は発想を柔軟にしてモーターを後ろへ置けばすべて解決できると気がつく。

 フロアにバッテリーを置き、後輪モーターで駆動するというレイアウトは2006年に登場し先ごろ生産が終了された三菱自動車のi-MiEVと同じだと気がついた。三菱自は当時、バッテリーを搭載して1100kgと重くなるため、前面衝突時に有効なクラッシャブルストラクチャー(衝撃吸収構造)を確保するためにRRレイアウトを採用したと説明していた。より大きなバッテリーを搭載するHonda eは車両重量が1500kgに及ぶ。だが車体構造設計技術が大幅に向上しているのでフロントモーターとしても問題はなかったという。あくまで市街地での扱いやすさ、取り回し性の向上、最小回転半径の最小化がRRレイアウトの最大の理由なのだ。

 RRレイアウトとしたことでメリットも得られた。ひとつは前後重量配分の適性化だ。前後50:50の理想配分でハンドリング的にも好バランスが得られる。またサスペンションの設計の自由度と性能にこだわり、後輪にもストラットを採用。十分なサスペンションストロークを確保し、旋回中トラクションの確保や制動時の後輪接地性も十分なものとしている。

 こうした特性は走らせるとすぐに感じ取ることができる。発進では315N・mというガソリンエンジンなら3リッターのV6に相当する大トルクが瞬時に引き出せる。その加速力はBEVらしい強力なものだった。駆動用モーターはアコードPHVの駆動モーターと同格のもので、車体寸法的には必要十分以上だろう。電費はWLTCモードでベーシックは283km、アドバンスも259kmとなっている。急速充電30分の充電で200km分がチャージでき家庭用200V交流コンセントからは10時間の充電でフル充電となる。

 走行モードはノーマルとスポーツの2モードが備わり、スポーツのほうが少ないアクセル開度で小気味良く走れるので好ましい。またシングルペダルコントロールへの切り替えが可能でアクセルペダルのオン、オフだけで発進から加速、停止までをカバーできる。アクセルオフでは最大0.18Gの減速Gが引き出せる。ほかにもVGS(可変ステアリングギアレシオ)システムの搭載で取り回し性を追求しているのだ。

 そのほか、視認性に優れるサイドミラーカメラシステムや室内の電装装備、コネクト機能などなど盛りだくさん。乗ったら確実に1台欲しくなる魅力的なBEVに仕上がっていた。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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