クルマの「肥大化」は「過度な速度追求」の結果! 無意味な性能争いをメーカーが「自制」する時代が到来した (1/2ページ)

厳格化する安全基準を満たすには大きくならざるを得なかった

 クルマの肥大化が止まらない。また、新車価格も高くなる傾向にある。

 それらは、時代の要請といえる。ひとつは、1990年代から強化されてきた衝突安全性能の向上だ。

 クルマが衝突した際に、人命を守るのは当然のこととはいえ、その衝突安全性能の基準速度が年を追うごとに高くなってきた。当然、衝突の衝撃は速度が高くなるほど大きくなり、より衝撃吸収能力が高く、なおかつ客室は堅牢で乗員の生存空間を守らなければならない。

 衝撃吸収構造とは、簡単にいえば車体寸法に余裕があるかが一つの指標であり、衝突した場所から客室まで距離を稼げれば、その間に衝撃を吸収しやすくなる。結果的に車体寸法は大きくならざるを得ない。ことに側面衝突に対しては、ドアや支柱から座席までの距離が短いので、5ナンバー車の幅より3ナンバー化したほうが空間を稼げる。

 ところが、車体寸法が大きくなれば、それだけ多くの鋼板が必要になり、車両重量が重くなる。そのまま車両重量が重くなるに任せていたら、加速など動力性能が落ち、出力の大きなエンジンを載せなければならなくなる。重い車体と、馬力の大きなエンジンの組み合わせは、燃費を悪化させる。すなわち、二酸化炭素(CO2)排出量を増やすことにつながり、気候変動を加速させてしまう。重くなればブレーキの制動距離も伸びる。

 そこで、薄く軽くしても剛性の高い高張力鋼板や、超高張力鋼板といった高度な技術を使った鋼板を使わざるを得なくなり、そうした高度な鋼板は、当然ながら高価格だ。原価が上がるので、新車価格も高くなる。

 加えて、電動化や自動運転化といった先進技術の搭載もある。それらによって原価がより高くなる。

 環境問題という時代の要請もあるが、そもそもクルマが大きくなる背景にあったのは、衝突安全性能の向上が目指されてきたからで、そこには、ドイツ主導の動きもある。ドイツには速度無制限区間のあるアウトバーンがあるため、超高速からの事故で人命が守られるようにするには、規制における事故時の設定速度も高くせざるを得ない。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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