たった1本を回すだけでホイールの脱着可能! 便利なハズの「センターロックナット」が量産車に普及しないワケ (1/2ページ)

この記事をまとめると

■センターロックはレース由来の技術でピット作業時間の短縮のために使用される

■信頼性の点で4〜5個のナットを使って固定する方式のほうが安全係数は高い

■市販車の延長を骨子とするNASCARでは最近までセンターロックが認められていなかった

レースの世界では素早いピット作業に貢献する

 1秒の遅速が優劣を分けるレーシングカーの世界では、車両そのもののスピードが重要な要素となることは言うまでもないが、ピット作業を伴うカテゴリーのレースでは、車両のサービス性も勝敗を分ける大きなカギとなる。作業の種類にもよるが、たとえばピット作業で10秒切り詰めることができれば、これは大きなプラス材料となる。コース上を走って10秒縮めるのは、車両の性能差がない場合、10ラップ、20ラップあるいはそれ以上の周回数を費やしないと挽回できないタイム差となるからだ。

 また、そうした走りが可能だとしてもマシン、ドライバーに対する負担は大きくなり、トラブルやアクシデント(スピンも含めて)を引き起こすリスクを一気に高めてしまう。走りではなく、ピット作業で時間を稼ぐことができれば、これほど有利にレースを進められる要素もない。

 こうしたピット作業時間短縮のために使われるレースメカニズムのひとつが、センターロック式のホイールだ。一般の量産車は、ホイールハブとタイヤ/ホイールを4本ないし5本のナット(あるいはボルト)で固定するが、レーシングカーではタイヤ交換時間を短縮するため、ホイールの中央1個所のみでハブと固定する方式が使われている。

 レーシングカーのホイール取り付け方式として使われるだけに、先進的な印象を受けるセンターロック方式だが、その歴史は思いのほか古い。1900年代初頭、イギリスのラッジ・ホイットワース社によって実用化されたもので、ワイヤースポークホイールをノックオフナット(ロックナットの2個所ないし3個所に設けた翼状の部分を銅製ハンマーで叩くことにより締め/緩めを行う方式)で固定する方式だった。ボラーニ製のワイヤースポークホイールもこの方式を採用するホイールだった。

 このセンターロック方式は、着脱が素早く行えることからQD(Quickly Disconnectable=素早い取り外しが可能)と呼ばれ、レーシングカーやスポーツカーのホイール固定方式として広く普及したが、ロックナットに突出した翼状の部分を持つことから、1960年代に入るとアメリカ、ドイツの安全基準に抵触することになり、代わって大型6角ナットに形状が変更された。1960年代から1970年代初頭にかけてのポルシェ一連のレーシングカー(910、907、908、917)がその代表的な使用例と言えるだろう。もちろん、F1もこの例にならったが、レース中のタイヤ交換作業が必須となる耐久レースの車両では、センターロック方式が持つ作業性のよさはより効果的だった。

 今では、レーシングカーのホイール固定方式として先進的なイメージが定着したセンターロック方式だが、レーシーな雰囲気が大きな付加価値となる市販高性能スポーツカーでは、フェラーリ・テスタロッサや288GTOといった歴史的なモデルで採用され、ポルシェは911GT3、ケイマンGT4-RS、ランボルギーニはアヴェンタドールといった世界を代表する高性能スポーツカーで、好んでこの方式は採用されてきた。


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