広島サミットに日本メーカーがクルマを提供できなかったのは痛い! 各国首脳が「BMW7シリーズ」に乗ったワケ (1/2ページ)

この記事をまとめると

■2023年5月19日から21日に開催されたG7広島サミット

■各国の首脳は旧型のBMW 7シリーズに乗っていた

■これらはアーマードカーと呼ばれる特別な架装が施されたモデルだ

首脳がこぞってBMW 7シリーズに乗っていた理由とは?

 2023年5月19日から21日の期間で広島県広島市及びその周辺においてG7(主要7カ国)広島サミット首脳会議が行われた。日本がホスト国となり、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国の首脳とEU(欧州連合)の欧州理事会議長と欧州委員会委員長が集まり、さまざまな事柄について話し合った。

 G7メンバーのほかに、韓国やインド、ブラジル、インドネシア、ベトナムなどの「グローバルサウス」といわれる国々のなかにおける主要国首脳、さらにはウクライナのゼレンスキー大統領も来日し、近年開催のサミットに比べてもとくに世界の注目を浴びることとなった。

 サミット開催中に、テレビニュースなどでG7首脳が移動する模様が伝えられたが、その時アメリカのバイデン大統領と岸田首相を除く各国首脳が移動用に旧型となるBMW 7シリーズに乗っていたのを確認した人も多いはず。しかし、この7シリーズは「普通の7シリーズ」ではない。一般的には「ARMORED CAR(アーマードカー/装甲車)」と呼ばれている(BMWでは「PROTECTION VEHICLES/プロテクションビークル」と呼んでいる)特別な架装が施されたモデル(760Liハイセキュリティ)なのである。

※写真はAPEC開催時に貸し出されたBMW7シリーズ

 G7首脳が目的地に到着し車両から降りる時に開いた時のドアガラスの厚みや、フロントウインドウに太陽光が反射した時の様子などを見て、「かなり厚いガラスだなあ」と思った人も多いはず。しかしアーマードカーは単なる防弾車というわけではなく、海外ではまったくの別物として扱われている。ちなみに車両が旧型なのは、じつはこの車両は2010年に神奈川県横浜市で開催された、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議における参加国首脳送迎車両として提供した車両が再び使用されたため。BMWがAPEC開催当時に発信したリリースでは「防弾車」と日本語訳していたが、この点については「アーマードカーは直訳すると『装甲車』になります。これでは表現が物騒であるし、日本ではアーマードカーは馴染みが薄いのであえて『防弾車』としたのではないでしょうか」(事情通)。

 7シリーズハイセキュリティのスペックとしては、アーマードカーの性能ガイドラインである「BRV2009」を世界で初めて認証取得。さらに厚さ60mmのセキュリティガラスは、多層構造の複合ガラスに新しい構造を採用している。そして内面はポリカーボネイト加工されており、ガラスの破片が車内に飛散するのを防いでいる。

 車室内とトランクを区切るバルクヘッドなどが装甲パネルで覆われており、「地雷を踏んでも生存空間は確保されるレベル」(事情通)となっており、マグナム拳銃やAK自動小銃などでの襲撃も想定しているとされている。また襲撃された際にも事情通に言わせると「車両がある程度ダメージを受けても時速100kmで100km移動できる(つまり襲撃から逃げ切れる?)」といったセキュリティレベルとなっている。

 それではなぜAPECで使った車両とはいえBMW車だったのだろうか。日本の自動車産業は国の重要基幹産業であるだけではなく、世界中でその品質や性能で定評のあることは周知の事実、また2022暦年締めでの世界自動車販売台数ではトヨタグループ(トヨタ、日野、ダイハツ)が3年連続の世界一となっている。それなのに、晴れの舞台である日本国内開催であるサミットで日本車がなぜ使われなかったかのという疑問が出ても不思議ではない。

 この点について事情通は「世界に自動車メーカーが多くあっても、アーマードカーを迅速に一定台数そろえられるのはBMWだけといっていいからなのです」と話してくれた。事実、先ほど行われたイギリスチャールズ国王の戴冠式においても、BMWのアーマードカーが使用されていた(この時もイギリスなのになぜドイツ車なのかという指摘もあった)。

 日本車であってもアーマードカーへの架装はもちろんできるが、その架装課程は一度標準車としてラインオフした車両を全バラ(バラバラにする)したあとに防弾などの架装を行うようであり、完成までには2年など長期間を要するとのこと。紳士服にたとえると「完全オーダーメイド」のイメージになるのだが、BMWは40年にわたり自社で装甲車両の設計と開発における新たな基準を設定してきており、アーマードカーとしての十分優秀な性能は確保しながら、どちらかといえば「吊るしのスーツ」に近いイメージでアーマードカーを生産することができるので、台数が揃いやすいということであった。

 そもそも、7シリーズやメルセデスベンツSクラス、レクサスLSクラスになると、標準スペック車両のガラスでも、言い方は微妙だが、一般的なサイズの拳銃の弾は通さないものになっており、ドアを強化するだけで「防弾車(アーマードカーではない)」として十分使えるという話もある。

 日本だけでなく、世界的にも一定のまとまった台数のアーマードカーを限られた期間でそろえるとなると、選択肢がBMWに頼るしかないというのが現実となるようなのだが、これだけ今回サミット関連の報道においてアーマードカーが映し出されたのだから、それだけでもBMWが望まなくともそれなりの宣伝効果はあるはず。また、架装に手がかからないということは、「それだけ標準車でも……」というのは自然の流れとも考えられるので、一般的な新車販売においても十分車両提供メリットはあるといえよう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

-

愛車
2019年式トヨタ・カローラ セダン S
趣味
乗りバス(路線バスに乗って小旅行すること)
好きな有名人
渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

新着情報