新しい挑戦をしなければ、新しい価値は生まれません
ワゴンならではの優れた使い勝手と、機能性を追求したSUVをかけ合わせた、軽クロスオーバーという新ジャンルのクルマとして、2013年12月に初代がデビューしたスズキ・ハスラー。
同社の主力モデルであるワゴンRと同様の室内の広さや使い勝手のよさを備えながら、遊び心あふれるポップなデザインでアクティブなライフスタイルを楽しむユーザーの心を鼓舞するというコンセプトは、発売直後から大きな反響を呼び、2019年12月には累計販売台数が48万台を突破。まさにスズキの屋台骨を支える基幹車種と呼べるまでの成長を遂げている。
そんなハスラーが初のフルモデルチェンジを実施、2代目へと生まれ変わった。今回の開発でチーフエンジニアを務めた竹中秀昭さんは、任命されたときの気持ちを次のように振り返ってくれた。
「爆発的なヒットとなったモデルの2代目ですからね。感じるプレッシャーの大きさは尋常なものではありませんでした。ですが、じつはその1年ほど前に自分自身がハスラーオーナーになっていたこともあり、ちょっとした運命のようなものも感じました。初代はすごくよくできたクルマですが、やはり自分の愛車として付き合っているうちに、ああしてみたい、こうだったらいいのに、という想いが少しずつ膨らんでいたこともあり、そうしたことを存分に注ぎ込もうと心に決めて開発に取り組みました」
2代目が目指したのは、初代が築いた『遊べる軽』というコンセプトを、全方位で進化させること。開発コンセプトは、『もっと遊べる!もっとワクワク!! もっとアクティブな軽クロスオーバー』だ。
「どこを進化させ、どんなハスラーらしさを守るか。2代目の開発は、そこが一番難しいところで、同時に一番苦労した点でもありました。それは外観・内装はもちろん、性能やサイズなど、あらゆる点についてです。デザインについても、何度も何度もやり直して今の形になっています。じつは社内の最終プレゼンまで進んだ段階で、それまでやってきたデザインを白紙に戻し、いちからデザインし直すということまでやっているんです」
新型車のデザイン開発の場合、先行スタディ、初期案の検討、中間案、そして最終案という段階を経るのが一般的だ。最終案で白紙に戻すというのは、常識では考えられないほどの事態である。
商品企画の立場から、今回の開発の最初期段階から携わってきた高橋修司さんは、そんな大きな決断が可能だったのは、ハスラーというクルマがスズキにとってきわめて大切な存在だったからと語る。
「自由な移動と楽しさやワクワクを提供すること。それはスズキの商品群の大切な独自性のひとつです。その際たるクルマがハスラーです。新しいジャンルを確立したクルマという自負もありますし、企業アイデンティティを体現したクルマと言っても大げさではないと思います。この段階からやり直すのは、スケジュールも含め、とても困難であることは誰の目にもあきらかでしたが、大きな挑戦、新しい挑戦をしなければ、お客さまに新しい価値を提供することはできないと考え、決断を下したんです」
そんな高橋さんの言葉に、竹中さんがさらに付け加えてくれた。
「われわれ開発チームも、肩に力が入り過ぎていたところがありました。やはり大ヒットモデルの2代目という重圧ですね。ハスラーらしさとはこうでなければいけない。新しいハスラーはこうあるべきだ。そんなふうに自分たちを追い込んで、がんじがらめになっていたところがあったんです」