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「電動化」が「目的」になってはいけない! トヨタが「水素エンジン」でレースに出た「本当の意味」 (2/2ページ)

「電動化」が「目的」になってはいけない! トヨタが「水素エンジン」でレースに出た「本当の意味」

トヨタが目指すのは電動化ではなくカーボンニュートラル!

 2021年5月22〜23日に富士スピードウェイで開催されたNAPAC富士SUPER TEC 24時間レースにおいて、水素エンジンを搭載したカローラ・スポーツがレースデビューしました。

 同24時間レースはスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankookの第3戦として開催されたものですが、ROOKIE RacingからエントリーされたORC ROOKIE Corolla H2 conceptは片岡達也監督の指揮のもと、井口卓人、佐々木雅弘、MORIZO(トヨタ自動車社長、豊田章男さんのライセンスネーム)、松井孝充、石浦弘明、小林可夢偉というそうそうたるメンバーがドライブ。国内レース史上は言うまでもなく、世界的に見ても自動車史上に残る記念すべき第一歩を記すことになりました。

 今回のレース参戦は、水素エンジンを搭載した競技車両が史上初めて実戦レースに姿を見せるという、非常にエポックメイキングな出来事でしたが、まずは水素エンジンのメカニズムを解説していきましょう。水素を使って走るクルマとしては、トヨタのMIRAIに代表される燃料電池車(FCV)が一般的にイメージされるところですが、水素エンジンは、水素を燃やして動力を生みだすエンジン、言い換えればガソリンの代わりに水素を使う内燃機関です。

 これまでマツダがロータリー・エンジン(RE)を使って、また海外ではBMWが、それぞれ開発実験を続けてきたことが知られています。トヨタでも2016年辺りから研究が始まり、最初はガソリンと併用したバイフューエルとして開発されていましたが、その後100%水素だけを使う現在のスタイルへと発展してきたようです。

 富士24時間にデビューしたCorolla H2 conceptは、GRヤリスのRZで使用されている1.6リッター直列3気筒+インタークーラー付きターボのG16E-GTSと4輪駆動システムを、ひとまわり大きな5ドアハッチバックのカローラ・スポーツに移植。

 ガソリン用の燃料タンクに代えてMIRAI用に開発された高圧で水素を貯めるタンク……より正確に言うならMIRAIに搭載されているのと同じものを2本と、少し長さを短縮したものを2本組み合わせて搭載すると同時に、燃料をシリンダー内に噴射するインジェクターをガソリン用のものから水素用のものに変更しています。しかしエンジンそのものは水素用に特別に開発したものではなく、ガソリンを使用するG16E-GTSをそのまま転用していて、これがこの水素エンジンの大きなポイントとなっています。

 この水素エンジンが目指した先にはカーボンニュートラルがありました。最近よく耳にするようになったカーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)に関して排出される量と吸収される量を同じにして、結果的に大気中のCO2を増やさないようにする、というものです。

 昨年末、菅義偉首相が2050年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現することを目指すとした「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を打ち出しましたが、これに先駆けて小池百合子東京都知事が2030年までに『脱ガソリン車』とする目標を表明するなど、なかなか喧しい世情となってきました。

 それを受けてテレビや新聞の全国紙が「ガソリン・エンジン車がなくなる」と報道していましたが、細かく見ていくと『脱ガソリン車』の対象は電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCV)に加えて電気とガソリンを併用するプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HEV)も含まれていて、ガソリンを燃料とする内燃機関を全否定するものではありませんでした。しかしこうした一連の状況からは、じつは木を見て森が見えていないのではと心配になります。

 そんなもやもやを晴らしてくれたのが今回の富士24時間に参戦したCorolla H2 conceptでした。決勝レースのスタート前に行われたプレスカンファレンスで、トヨタ自動車社長として日本自動車工業会の会長をも務める豊田章男さんは、「目指しているのは電動化ではなくカーボンニュートラル」であり「そこに向かうための選択肢を狭めてはならない」。こう言って電動化を拙速に進めようとする動きをけん制しました。

 そうです、わが国にはハイブリッドやクリーン・エンジンなど世界に誇る内燃機関の技術があります。そしてそれを製品へと具現化する“モノづくり”のネットワークもあります。何よりも、現在世の中で稼働中の何千万台にも及ぶ内燃機関を持つ自動車を忘れるわけにはいきません。そう考えると、ガソリンや軽油を燃料とする内燃機関に展開可能な水素エンジンは、とても有効な技術ということになります。

 ちなみに、プロジェクトを主導したGAZOO Racing Companyの佐藤恒治プレジデントは、「インジェクターと水素タンク、そして水素に相応しい燃焼制御、といった辺りが水素エンジンのキーポイントとなる技術に挙げられます」とし、さらに「インジェクターに関してはDENSOさんが長年研究開発してきたノウハウによって生み出されたもので、水素タンクに関してはMIRAIの開発で得られたノウハウが使用されています」とコメントしています。

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