
この記事をまとめると
■私たちが口にしているアイスクリームは冷凍車によって運ばれてきたものだ
■食品輸送に従事する運送会社にとって冷凍車はなくてはならない存在だ
■元トラックドライバーの筆者が冷凍車の庫内の仕組みを解説する
アイスクリームを運ぶ際は夏でもマイナス20度に設定
私たちが何気なく口にしているアイスクリームは、一体どのようにして運ばれているのだろう。そんなことを疑問に感じたことはないだろうか。どのようなものであっても生産や販売する工場が存在し、そこから全国各地の物流センターへと出荷されたのち、小売店へ。そして、わたしたちの手もとに届くようになっている。
もちろん、アイスクリームもそのような流れで流通しているのはいうまでもない。一度溶けたらいびつな形になってしまうことは想像に難くないアイスクリームを運ぶためには、冷蔵冷凍装置を備えたトラック、いわゆる「冷凍車」が必要となる。アイスクリームをつねに凍らせたままの状態で、工場から店舗まで運んでいるのだ。
かくいう筆者も、過去に大型の冷凍車でアイスクリームを運んでいた経験がある。富山県の大手メーカーの工場から兵庫県や広島県の物流センターへと運んだりしていたのだが、溶かすことができないアイスクリームを扱う仕事は本当に気を使ったものだ。
アイスクリームの入った小さなダンボールケースをひとつひとつ手作業で降ろしていくのが当時は基本だったのだが、とにかくスピードが求められたのである。マイナス20度に温度設定された冷凍車と冷凍庫のなかで、汗をかきながら作業に励んだものである。
そんな冷凍車は、食品輸送に従事する運送会社にはなくてはならない存在である。そのため、軽トラックからトレーラーにいたるまで、冷凍車は存在しているのだ。そんな冷凍車には3つの種類が存在するのだが、代表的なものは機械式冷凍車。一般的なエアコンと同じように、コンプレッサーによって生み出された冷気で庫内の温度を調節するというものだ。荷室が広い大型車やトレーラーの場合は冷凍機用のエンジンが別途搭載されているのだが、これがまたドライバー泣かせ。基本的には耕運機や発電機などで使用されているものと同じエンジンが採用されているため、騒音問題に悩まされるのである。
冷凍機は設定温度に達したらエンジンが停止し、そして庫内温度が上昇すれば自動的にエンジンが始動する仕組みになっている。アイスクリームを運ぶ場合は夏場でもマイナス20度に設定するのが一般的であるため、冷凍機のエンジンはつねにまわりっぱなしの状態なのだ。そのため、騒音でクレームを入れられることも多々あるのである。それでも冷凍機を止めるわけにはいかないため、冷凍車のドライバーは肩身の狭い思いを強いられてしまうのだ。
もちろん、冷凍車の特徴は冷蔵冷凍装置の存在だけではない。庫内の壁や天井には断熱材を組み込み、殺菌作用のあるステンレス製の床材を使用し、後部には冷気を逃がさないようにカーテンを装備するなどして庫内の温度が上昇するのを防いでいる。さらには冷蔵冷凍装置をふたつ荷室内の前後に装備し、内部を冷やすというスグレモノの冷凍車も存在する。これはツーエバーと呼ばれる仕様で、より荷室内を冷やすことができるのだ。しかも内部に間仕切りをすればアイスクリームのような冷凍ものと野菜のような冷蔵ものといった、異なる温度帯の荷物を運ぶことができるのである。
騒音を撒き散らす冷凍車は、ほかのトラックドライバーからしても厄介な存在であるかもしれない。しかし、彼らも好き好んで迷惑をかけているわけではない。それどころか食品関係は365日稼働している店舗が多いため、日曜日であっても冷凍車は数多く走りまわっている。つまり、トラック業界のなかでもハードな部類に該当するといっても過言ではないだろう。その部分を理解し、冷凍車のドライバーと接していただけたら幸いに思う。