
この記事をまとめると
■本来は運賃が安いことが長距離バスの魅力のひとつ
■しかし現在ではハイグレードバスが人気を集めている
■なぜハイグレードバスが選ばれるのか?
贅を極めたバスが続々登場
「グリーン車より豪華な新幹線のグランクラス」「中央線にグリーン車登場」「JR各社の豪華列車、ななつぼし、四季島、瑞風」など、鉄道界隈では豪華列車の旅が大盛況だ。船旅でも豪華客船ツアーが人気だというし、物価や税金が上がって景気が悪いといわれているものの、高級志向のユーザーは確実に増えてきているようである。
これは、バスも例外ではない。本来、長距離バスは鉄道より安いことがウリのひとつであり、2002年の規制緩和(乗合バスが対象、貸切バスは2000年に規制緩和)で新規参入や料金設定がしやすくなったことで、一挙に価格破壊が進行した。いまでも、関東と関西の間を2000円程度の運賃で走るバスもあるという。
しかし、この低価格には少しからくりがある。中小、零細バス事業者は所有するバスの台数が少なく、事務所や駐車場などが小規模で済む。さらに、社長がドライバーを兼ねたり、総務、経理といった部門はもたなかったりするなど、大手事業者に比べて会社運営コストが極端に低い。また、需要の多い儲かる路線に限って参入することで、効率的に利益を確保しているのである。
料金設定も繁忙期を高くして閑散期は赤字覚悟の激安にするという、ダイナミックプライシングを採用。路線バスは完全予約制でなければ、原則的に乗客がなくても運行しなければならない。もし、ユーザーがいないからといって運休したとしても、保有車両が少ないと配車に支障をきたすことになりかねない。そこで、閑散期に空車で走るぐらいなら低価格にしてでも、売り上げを挙げておこうと考えるわけだ。
ただ、低価格戦略は薄利多売になる。すなわち、たくさんの乗客を確保するために、広告や宣伝に力を入れなければならいのだ。ところが、ユーザーニーズが多様化したことでこだわりをもつユーザーが増加した。単純に低価格を打ち出しても、そこに納得する理由がなければ賛同を得られなくなったのだ。
これに対して、気に入ったものには多少無理をしてでもお金を使う。「推し活」などはその最たるもので、日頃は節約に励んでお金を貯め「推し」のためには惜しげもなく消費する。長距離バスの場合も、何かの「こだわり」がある付加価値を示して、ユーザーがそれに賛同すれば高い料金を払ってくれるようになるのだ。これなら、少ない乗客でも十分利益が確保できるのである。そこで、注目されたのがハイグレードバスなのだ。
その内装は贅を極めており、3列シートは当たり前。シートは高級な素材を使用し、人間工学に基づいた座り心地の良さを追求。それぞれ乗客にはプライベート空間が確保されており、テーブルや電源などの装備も充実。きれいなトイレだけではなく、バーカウンターをもつ車両まで登場した。もはや、新幹線のグランクラスに勝るとも劣らない豪華さである。
このようなバスなら夜間の長距離の移動も苦にならないし、魅力あるツアー企画であればリッチな旅行を楽しむことができる。決して大きなマーケットではないかもしれないが、確実に大金を払って利用をするユーザーは存在するのだ。ハイグレードバスやそれを利用するツアーが増加傾向にあるのは、価格訴求戦略を続けても生き残りは難しいということなのであろう。