
この記事をまとめると
■日本政府は関税回避のためにアメリカ生産の日本車を輸入することを検討している
■トランプ政府は関税により海外メーカーがアメリカ国内生産を拡大することを狙っている
■日本未導入だった日本車が正規販売ルートで購入できるようになるかもしれない
アメリカで生産された日本車をあえて輸入する意味
日本政府がトランプ関税回避のため、アメリカから日本に新車を逆輸入することを検討している。そんな記事をネット上で見かけることがある。その背景と可能性を考えたい。
まず、逆輸入というのは「間違い」だ。逆輸入とは、日本国内で生産して海外に輸出した海外仕様の新車を、再び日本に輸入することを指す。
事例としては、インフィニティやアキュラの左ハンドルモデルが並行輸入されており、街なかで左ハンドルの日本車を見かけることがある。今回の日米交渉でもち上がった、アメリカからの日本車輸入とは、アメリカ国内にある日本メーカーの生産拠点で日本向けの右ハンドル車を製造して、日本に輸出するというものだ。そのため、これは逆輸入にはあたらない。
では、なぜそんな面倒は話をいま、日本はアメリカに提案する必要があるのか。
一連のトランプ関税に関する日米交渉において、もっとも重要なポイントは「アメリカの製造業を再起させること」にある。だから、海外からのアメリカに輸入する新車の関税を上げることで、海外メーカー各社がアメリカ国内生産を拡大することを狙っている。
この点について、自動車メーカーの業界団体である日本自動車工業会は、アメリカに対する貢献を数字で示して、アメリカ政府に理解を求めている。
具体的には、累計投資額が664億ドル、現地生産台数が年間328万台、そして直接雇用が11万人。経済波及効果も含めると220万人以上の雇用を、日系自動車メーカーがアメリカで支えていると説明している。
この論理でいえば、アメリカで販売されている日本車の多くが「Made in USA」であり、アメリカにとってマイナス要因は少ない、ということになる。
一方で、トランプ大統領がよく口に出す「日本は不公平だ」という点がある。日本はアメリカで自動車ビジネスを拡大してきたのに、日本ではアメ車の需要が少ないというのだ。いわゆる非関税障壁という商慣習など、課題があるという見方をしているようだ。
だが、一般ユーザーも承知しているように、そもそもアメ車の多くが大型車で日本の交通事情にあっていないことや、商品性にしても、ミニバンに代表されるような日本人の好みに合致していないなど、根本的な課題が少なくない。
過去にも、トヨタ「キャバリエ」やGM「サターン」などがアメリカから輸入されたが、販売は伸びず。また、フォードは日本市場から撤退している。ただし、ジープのようにニッチマーケットのニーズをしっかり捉えた成功事例もある。
こうしたさまざまな状況を理解した上で、日本政府としてはアメリカ政府との交渉カードのひとつとして、アメリカ生産・日本車の日本へ輸出を議題に出したのだと思う。
仮に、この話が実現すれば、これまで日本では無縁だった各種海外モデルが日本の正規販売ルートで購入できるかもしれない。
いずれにしても、今後の日米交渉の行方をしっかり見守っていきたい。