
この記事をまとめると
■プジョー104でパリから東京までやってきたフランス人・ルナンさんに東京タワーで取材
■ホテルなし高速道路なしというコンセプトで総距離2万km以上を走破してきた
■旅の様子はYouTubeとInstagramで公開中
1年以上かけてパリから東京へ自走で到達
少し前から、プジョー104でパリから東京を目指すフランス人がいて、もう日本に上陸しているらしいと、SNS界隈がザワついているのはなんとなく知っていた。その彼が7月末日、東京タワーに現れるから、もしよかったらご一緒に! と、ステランティス・ジャパンでプジョーのブランドマーケティングを担当する小川隼平ディレクターが、緩く声がけしてくれたので、休日ということもあって、のこのこと出かけてみた。
東京タワー周辺にクルマを停められる場所は何カ所かあるので、約束の時間が近づいた頃合いにまわりを1周してみた。すると見紛うはずもなく、フランスのナンバープレートを付けたプジョー104が走っていたので追尾。同じ駐車場に小川ディレクターもいて、royaldeluxe_gti(インスタグラム・アカウント)、Détective Renan(ユーチューブアカウント)こと、ルナンさんに合流できた。
それぞれのアカウント名だが、「ロワイヤル・ドゥ・リュクス」とは巨大な創作マシンを使うことで有名なフランスのストリートパフォーマンス劇団のことで、そのGTi版という意味だろう。もうひとつのインスタ用のほうは「探偵ルナン」の意味で、当然フランス語圏で日本の有名なアニメ「探偵コナン」はDétective Conanだったりする。そして彼の動画のタイトルに使われている文字フォントは、昔からフランスでバックパッカーのバイブルとされてきた旅行ガイドの「ルゥタール」、あるいはあちらの漫画である「タンタンの冒険」シリーズのそれを彷彿させるものだ。
件のプジョー104 SLは、オンラインで観るより実物はさらに年季モノというか、失礼ながらボロッボロ。クルマから降りてきたルナンさんは白Tシャツに短パンというラフさだが、黒文字盤にバーインデックスの時計がさすが上品、いかにもフランス人といったいで立ちだ。
その場にいた皆が互いに挨拶を済ませると、小川ディレクターから記念品が渡され、ルナンさんが満面の笑みで受け取った。ふと東京タワーのほうに目をやる彼に、小川ディレクターが「すごく長い道のりだったと思いますが、いまのお気もちは?」と問いかけた。
そうしたらなんと、ルナンさんの目にみるみる涙がたまってきた。決して小川ディレクターが泣かせたワケではない。それにしても、東京タワーを見上げて涙を流すフランス人がいるなんて、まったくシュールな光景で初めて見た。それほど104でユーラシア大陸を横断してくる経験そのものが、現実離れしていたということだ。
聞けば、ルナンさんがパリを発ったのは2024年の6月で、撮れたものをある程度まとめて投稿するようになったのは同年9月。「できるだけ準備は少なめで」「高速道路はなし」「ホテルもなし」というのが、彼の旅のコンセプトだ。
それでもパリ近郊、ユーロディズニーとパルク・アステリクスの中間ぐらいに位置し、ポルシェをはじめクラシックカーのレストア修理を専門とする「ガレージPN」にプジョー104を預け、なんとか車検に通る程度に、ブレーキパッドやオイルや液ものなど消耗品まわりは全部ひとまわり交換して準備したとか。
「東京どころかドイツを無事に横断できたら驚くぐらい、せめて1万~1万2000kmぐらい走ったらオイルや消耗品の点検をしなきゃだから、フランス国外だとパーツ入手が大変かもしれないよ、ってメカニックにいわれたよ」と泣き笑いになりながら、ルナンさんはふり返る。
彼は決して最短ルートを選んで東京まで走ってきたわけではない。パリを発ってからベルギーのディナン、ドイツはライプツィヒ、ポーランドでアウシュビッツに寄ったあとはスロヴァキアを経由してセルビアや北マケドニア、トルコからジョージア、チェチェンを縦断してロシアからカザフスタン、さらにモンゴルからシベリア、ウラジオストックからフェリーで韓国・釜山を経て、福岡に2カ月前に上陸。九州や関西をゆっくり進んで来たとはいえ、パリを出立してから1年近く、2万1000km以上をかけた行程だ。
「出発直前、寝袋ぐらいもって行きなさいと母親にいわれてね。あとはテント。もしくは旅先で知り合った人が、泊めてくれたり食事を用意してくれたり。昨晩もSNSを見ていた横浜の人が泊めてくれて、大黒ふ頭にも連れて行ってもらったんだ」
ところによって道路が高速道路しかないことはままあったそうだが、ホテルを使わないという当初のコンセプトは貫徹できたという。また、コンテンツの趣旨に賛同してくれる人から投げ銭を募って( https://fr.tipeee.com/detectiverenan/ )もいる。7月末現在、インスタグラムやユーチューブへのポストで公開されているのは、チェチェン辺りまでのパートで、その先はまだこれから編集するのだとか。