
この記事をまとめると
■かつて業界の頂点であった個人タクシーは開業資金や顧客確保が難化している
■アプリ配車普及で法人所属のまま安定収入を得る運転士が多い
■ベテランの価値低下とDX化でタクシー業界は歴史的な転換期に直面している
タクシー業界の常識が変わりつつある
昔のタクシー業界といえば、まずはタクシー会社で勤務して無事故無違反、乗客からのクレームなく業務をこなす。そして一定期間キャリアを積んだあと、資格を取得して個人タクシーを開業するのがタクシー運転士のステップアップの定番であった。いまもなお利用者側でも「個人タクシーの運転士さんは運転技術も接客技術も優れている」と思っているひとが多い。
ただ個人タクシーとなると、管理業務や事故を起こせば事故処理などをすべて当該運転士本人が行わなければならない。中古タクシー車両でスタートするにしても、組合へ加盟したりすればたちまち数百万円の開業資金が必要となる。
過去には組合に加盟するメリットも大きく加盟しての開業が主流だったのだが、いまは組合非加盟で独立開業するひとも目立つ。高級車も目立つ個人タクシーだが、その車両ごとに運転士でチームを組んで客をシェア、つまり囲い込みをするといったもことも聞いている。
また、アプリ配車が普及し、テレビ局などの大口利用先では法人会員となることもあり、法人タクシーにより仕事がまわりやすくなっているケースが顕著で、都内での個人タクシーの新規開業は事実上不可能といわれるほど難しくなっていると聞いている。
タクシー事業者としては、大手ほど大口利用客を抱えており、優良運転士を多く抱えていたい。当然待遇改善も進んでいる。優良運転士になれば、得意先への優先配車やアプリ配車では乗客の評価も高く、一定基準をクリアすると、利用距離の長い配車要請がわかるように車載器に表示させて優先的に配車要請に応えられるようにしているようである。
個人タクシーとして独立するか否かは個々の判断次第となるが、現状を考えると、優良大口顧客を多く抱え、アプリ配車などデジタルツールを積極導入している事業者に所属したままキャリアを積んでいくほうが、事故などなにかあった時にも会社が対応してくれるということもあり、有利と考えてそのまま残る運転士も目立っていると聞く。
一方で、個人タクシーがアプリ配車サービスに加盟するといったこともあるようだ。かつてはベテランの勘で街を流して利用客を探し当てたり、培ってきた信用で顧客確保を行ってきたのだが、近年ではアプリ配車というものがタクシーでの稼ぎかたを革命的に変えてしまったともいわれている。つまり、ヘビーユーザーほどスマホでタクシーを呼ぶようになってきたのである。
今後はアプリ配車ベースでの業務しか知らない運転士が幅を利かせてくる。東京ですら地理試験なく運転士になることができるので、海外のようにカーナビに頼ったタクシー運行が日常化してくるだろう。「●●通りを■■交差点まで」といっても、「住所を教えてください」と返される日もそう遠くないと筆者は考えている。
利用者を見ていても若い世代ほど住所を伝えてきて、カーナビで検索してほしいと指示する乗客が目立っているようである。ご多聞に漏れずDXの進むタクシー業界でも、「べテラン」というものの価値が時代とともに下がってきているように見える。個人タクシーがタクシー運転士の最高峰というイメージも往時よりは薄れているように見える。ひょっとしたら、日本のタクシーはいま大きな分岐点にきているのかもしれない。