
この記事をまとめると
■ガソリンスタンドはアプリ導入で顧客データ収集や囲い込みを強化している
■アプリを活用して油外品販売や予約サービスを展開し利益確保の柱に据えている
■店員の評価制度もアプリ登録数が影響するため熱心な勧誘は業界構造の表れともいえる
アプリ推進は売り上げのためだけではない
休日、ガソリンスタンドに寄ると、店員さんが笑顔で「アプリの登録はいかがですか?」と声をかけてくる光景は、もはや日常茶飯事。昔なら会員カードの作成を勧められていたが、いまやアプリ一色。「なぜこんなにアプリを推してくるのか?」と疑問に思ったドライバーも多いはずだ。熱心すぎる営業トークに「またか……」と思うのも自然だろう。しかし、この背景には単純に売り上げアップ以上の、ガソリンスタンド業界を取り巻く大きな変化と戦略が隠されている。
<デジタル化の波に乗り遅れまいとする業界事情>
ガソリンスタンドがアプリを推進する最大の理由は、業界全体のデジタル化への対応だ。各社が競うようにアプリのダウンロードキャンペーンを展開しており、新規登録者には給油クーポンやポイント付与などの特典を用意している。その背景には、単なる顧客サービス以上の意味がある。
従来のガソリンスタンドは、顧客が来店した際の売り上げしか把握できなかった。せいぜい会員カードの導入でリピーターを増やす程度だ。しかし、アプリを導入することで、顧客の給油頻度、利用時間帯、購入パターンなどの詳細なデータを収集できるようになる。これらのデータは、より効果的なマーケティング戦略の策定や個別顧客に最適化されたサービス提供に活用される。
また、ENEOS公式アプリが累計1800万件以上ダウンロードされるなどの成功事例を受けて、ほかのガソリンスタンドチェーンも競うようにアプリ開発に力を入れている。顧客囲い込みの激化により、アプリ登録数は各社の重要な経営指標となっているのが現状である。
キャッシュレス決済の普及も大きな要因である。かつて大手ガソリンスタンドチェーンは独自のキーホルダー型決済ツールを開発・普及させた。この決済ツールはクレジットカード情報と紐づけられ、給油の際にクレジットカードを出すことなく給油ができる。事前に油種や給油数量、給油金額など、給油に関する情報を登録することができるので、顧客は給油機にかざすだけで、給油を始められる。
アプリはこの延長線上にできたサービスで、決済の簡便性はもとより、顧客データの蓄積にも大きく貢献するため、各社が力を入れるのは当然の流れだ。