
この記事をまとめると
■2008年のジュネーブショーにてリンスピードは水中走行可能な「スクーバ」を公開した
■スクーバはロータス・エリーゼをベースにリチウムバッテリーを搭載したEVだった
■スクーバはふたつのプロペラとジェット噴射装置によって最大水深10mまで潜航可能だ
映画に出てきた水中走行可能なエスプリをエリーゼで再現?
「007」の映画「私を愛したスパイ」のストーリーはうろ覚えだとしても、ロータス・エスプリが海へとダイビングして、潜水艦に変形するシークエンスは忘れようがありません。あれから40年以上が経った2008年、ようやく水中を走れるクルマが登場しました。よくある水陸両用車の類ではなく、ボンドのエスプリと同じく水のなかを移動できるのです。
陸上と水中の両方で運転できる世界初のクルマ、その名も「sQuba(スクーバ)」は、スイスのスペシャルカーファクトリー、リンスピードの作品です。同社は1980年代初頭から、富裕層向けのカスタムカー、すなわちポルシェやフェラーリを独自の解釈で作り上げてきた老舗中の老舗ファクトリー。最近ではマイクロモビリティやEVにも手を染めるなど、アグレッシブな創作活動が注目されています。
そんなリンスピードがスクーバで世界中の度肝を抜いたのは2008年のジュネーブショーでした。創業者のフランク・リンダクネヒトは「ようやく『私を愛したスパイ』に追いついた」として、潜水するエスプリを目指していたことを明らかにしています。
もっとも、ボディに使われているのはご覧のとおり、エスプリではなくエリーゼです。というのも、スクーバはリチウムバッテリーを動力源としたEVであり、容量やスペースの都合もあってエスプリをあきらめたのだとか。
ところで、陸上では後輪を駆動して走行するスクーバですが、水中に入るとキャビンが隔壁で覆われて潜水艦スタイルに変身、というわけにはいきませんでした。だいたい、水に入っても最初はボディ内に残った空気によって浮かんでしまうのです。
こうして水上走行も可能ですが、ドライバーがボディ内のスペースに浸水させることで、スクーバはようやく水没するとのこと。映画のようなわけにはいきませんが、なかなか面白そうではあります。
また、エリーゼのオープンキャビンはハッチなどで覆われるわけではないので、乗員はスクーバダイビング同様に搭載されたエアタンクから空気を吸うことに。このあたりも、潜水艦というより水中ボート的ですが「あくまで潜水艦を目指しています」とリンスピードは強気なコメント(笑)。
それでも、水中モードではふたつのプロペラとジェット噴射装置によって最大水深10mまで潜航可能。水中での最高速は3km/hとされています。ちなみに、陸上での最高速は120km/hだそうですが、水深10m以下ならタイヤで走れないのかという質問に対し、「浮力と駆動力のバランスが取れないため、大変なことになる」と物騒なコメントもありました。
とはいえ、エリーゼのオープンキャビンを活かし「緊急時の脱出が簡単でスピーディ」とし、水面走行も可能となると、レジャーの道具としてはなかなか新鮮、かつ優秀なもの。実際、リンダクネヒトはプロトタイプでスイスのチューリヒ湖に潜水したそうですが、「湖底の泥で視界が悪かった以外はエスプリで潜水したジェームズ・ボンド気分」だったとか。
スクーバの開発に120万ドル(約1億8000万円)を費やしたリンスピードは、200万ドル(約3億円)での販売を計画したとか。彼らの太客たるアラブのオイルダラーが早速注文をしたそうですが、2025年現在に至ってもスクーバが納品されたというニュースは見当たりません。実も蓋もないことをいえば、ここは無理してでもエスプリで開発するのが正解だったような気がしますけどね。