
この記事をまとめると
■日本郵便の全国3188局のうち2391局にて「点呼不備」が発覚した
■内部監査のたびに形だけ点呼をする偽装記録が常態化していたという
■国交省が特別監査で免許取り消しをしたことで業界に波紋が広がっている
日本郵便のトラックが走らなくなる
2025年4月23日、運送業界に衝撃的なニュースが駆け巡った。その内容は、日本郵便が公表した内部調査で、全国3188の集配郵便局のうち75%にあたる2391局において、輸送トラックの点呼不備が見つかったというものである。自動車運送業の点呼業務の実施は、貨物自動車運送事業輸送安全規則で義務付けられている。トラックドライバーが運転業務に就く際に、点呼を行なって安全の確認をするための大切なプロセスなのだ。
ところが、この安全に不可欠な業務をいい加減に済ませている事業者は少なくないという。国土交通省の各地にある運輸局が公表している「自動車運送事業者に対する監査と処分結果」でも、常に上位にきている違反なのだ。点呼内容は、決して複雑なものではない。運行管理者がドライバーに対して対面で行うものだが、近年はITツールを使用して一部を遠隔実施することも認められている。
点呼の種類は3つで、「業務前点呼」「業務後点呼」「業務途中点呼」である。内容はそれぞれ細かく定められているが、主にドライバーの健康状態や、酒・薬物を摂取していないかといったことを確認する。それほど多くの時間や手間を必要とする内容ではないのだが、これを面倒がる現場があるのも事実である。
日本郵便ではこういった点呼を実施していないにもかかわらず、実施したように記録簿を改竄するなどという不正が横行していた。定期的に内部監査が実施されていたとのことだが、そのときだけ点呼をするなどかなり悪質であったようだ。職場では忙しさにかまけて、やらないことが「当たり前」になっていたのだろう。
日本郵便が内部調査を行って公表したことを受け、国土交通省が特別監査を実施して6月25日に同社の運送事業許可を取り消した。これにより、トラックなどおよそ2500台の車両が、郵便輸送に従事できなくなったのである。さらに、集配などに使用されている3万2000台の軽貨物や、8万3000台の原付バイクについても調査が進められており、相応の処分が下るものと予想されているのだ。
これだけ大きな処分があると、郵便やゆうパックの配達に影響は出ないのだろうか。
もちろん、まったく影響がないということはないだろう。しかし、民間の運送事業者に外注をしたり、小規模運送事業者に委託したりして、いまのところ大きな混乱にまでは至っていないようだ。
そもそも、日本郵便が内部調査に踏み切ったということは、国土交通省はずいぶん以前からこの問題を把握していたと考えられる。何度か是正するように促していたにもかかわらず、一向に改善されないことに業を煮やして今回の処分に繋がったのであろう。すなわち、点呼不備・不正は、業界全体に根深く蔓延する問題なのだ。
今回の処分で、不正が常態化している運送事業者は肝を冷やしたに違いない。日本郵便は民間とはいえ唯一無二の大手事業者であるから、今回の処分で屋台骨は揺らぐことなく立て直されていくことになる。しかし、中堅・中小事業者が同様の処分を受ければ、直ちに倒産してしまうだろう。あまり望ましいことではないのかもしれないが、一罰百戒によって点呼業務が運輸業界に定着するきっかけを、作ったということなのだろうか。