
この記事をまとめると
■都営バスの減便が相次ぎ23区内でも路線維持が一部困難な状況に
■待遇低下や社会的軽視が運転士不足を加速させており悪循環が深まっている
■公共交通を支える職の尊厳をどう取り戻すかが都市では試されている
深刻化する路線バスの運転士離れ
路線バスの廃止や減便は地方の過疎地域特有の問題というのが昔話となって久しいが、日本の首都である東京、しかも23区内でも事態は深刻なものとなってきている。東京都交通局は2025年9月17日に2025年10月1日より実施した都営バスのダイヤ改正についてのお知らせをウェブサイトに掲載した。そこには路線の一部を運行委託しているバス事業者の乗務員不足を理由とし、減便を含むダイヤ改正を実施としている。報道によるとその減便数はトータルで206便にも及ぶとのことであった。
前述したように、路線バスの減便あるいは廃止が全国的な問題となっていることは、いまさら驚くことではないが、いよいよ首都東京でも事態は改善どころか深刻な方向に向かっていることには驚かされた。筆者の生活圏で路線バスを運行している事業者では車庫の集約化も進んでいる。市街地にある車庫を閉鎖して転売もしくは自社所有のまま、そこに分譲あるいは賃貸マンションを建設したりして新たな収益確保を進めたようで、郊外にある大きな車庫に集約化されていた。
バイパスを長距離回送にて走っている路線バスをよく見かけるようになったので調べてみると、ある始発バス停まで車庫から30分ほど移動時間がかかるようであった。ほかにもいくつか調べてみると、車庫から運行開始するバス停まで20分前後移動時間がかかるところも目立っていた。働き方改革で就業時間が厳しく管理されているなかで、回送時間が長めとなったように見える車庫の集約化がさらに営業運行に負担をかけているようにも見えた。
バス運転士が集まりにくい理由はいくつかあるのだが、そのひとつはやはり仕事に対して少ない給料となるだろう。給料が上がりにくい最大の原因は運賃の値上げがなかなかできないことだ。
先日南カリフォルニアを訪れた時たまたま路線バスに乗ったのだが、インフレや人件費の高騰が極端に進むアメリカにありながら、バス運賃は均一(一定区域内はどこまで乗っても同じ)で1.75ドル(約262円)であり、ここ数年運賃は変わっていないと記憶している。
Los Angeles Metro(ロサンゼルス郡都市圏交通局)、つまり公営事業者が運行しておりクルマ社会として有名なロサンゼルス地域で、おもに所得の問題となるのだろうが、クルマをもてない(運転できない)ひとの移動手段確保というのが、バス以外も含め公共交通機関でもその大きな使命ともなるので、行政などからのさまざまなサポートがあるからこそ、1.75ドルという運賃が実現できているのだろう。
日本ではかつて、ある都市の公営バスの運転士の給料が高すぎるとした市民からのクレームが相次ぎ、市が給料の引き下げを行った結果、運転士の民間事業者への転職があとを絶たなかったりして、いまでは日本屈指の大都市ながら路線バスの減便や廃止が顕著な場所としてすっかり有名となっている。
民間事業者とて、燃料費の高騰傾向はすっかり定着して路線バスの運行経費負担が重くなるなか、十分にコストアップを反映した運賃値上げができないので、公営事業者より目立って稼げるという環境にはない。
