
この記事をまとめると
■トヨタが安全への取り組みをさらに加速させる
■クルマ同士がつながってAIがドライバーの心理までを読んで「事故ゼロ」の実現を構想する
■「事故死ゼロ」実現のためのトヨタの第一歩が次期型RAV4に搭載される「Arene」だ
胸のうちにあるのは「交通事故死ゼロ」への想い
■トヨタの安全への挑戦
ジャパンモビリティショー2025が11月1日に一般公開された。コロナ禍で元気がなくなったショーだが、今回はテーマ設定を含めようやく世界に向けた日本の自動車業界の元気が戻ってきた印象がある。各社は次の時代をにらんだコンセプトカーを持ち込むなか、トヨタは東富士研究所で事前説明会を実施し、センチュリーをトップに置くブランドの再定義という大胆なビジョンを公開した。詳細はWEB CARTOPのJMSのサイトで楽しんでもらいたい。
トヨタの事前説明会ではもうひとつの大切な発表があった。それはトヨタが安全への取り組みをさらに加速させるという話だ。具体的には公表していないものの、技術者の胸の内には「交通事故死ゼロへの挑戦」という気概が宿っているのではないだろうか。
ワークショップは東富士研究所内にある市街地を模擬した特設コースでふたつのユースケースが示された。
ひとつ目は高速道路の合流だ。経験の浅いドライバーにとって流れが速い車線に滑り込む判断は難しく、ミラー情報だけでは限界がある。そこで航空管制のようにクルマ同士が互いの状況を把握できれば、事故リスクを大幅に下げられる。この場合はクルマ同士が通信でつながり、「V2V」(Vehicle-to-Vehicle)という協調体制を構築する。通信手段はITS専用周波数の760MHz帯を使う。
ふたつ目は交差点の死角問題。車載カメラやレーダーでは見えない死角を路側カメラの情報で補完する実証が行われた。ただしここには課題もある。ビッグデータをクラウドに上げれば遅延が発生し、信頼性も担保しなければならない。そこでトヨタは、クラウドとクルマの間にエッジ層を置く「Multi-access Edge Computing(MEC)」を研究し、遅延を限りなくゼロに近づけようとしている。
このようにクラウドを介してクルマとインフラを繋げる「V2I(Vehicle-to-roadside-Infrastructure)」はさまざまな可能性を秘めているが、トヨタが考えるインフラとは交差点に設置されたセンサーだけでなく、周囲のクルマのセンサーも使い、瞬時に死角情報を提供することで、リスクを減らすことが可能となる。現代のクルマはカメラなど多くのセンサーを持っているので、そのデータ(情報)を積極的に利活用するのが狙いだ。このように従来とは異なりクルマが知能化することで、交通事故死ゼロを可能とする基盤技術が整ってきたわけだ。
ところで、インフラ協調は単なるクルマ同士の連携では終わらない。トヨタは膨大な走行環境データをAIで解析し、人の心理や注意の揺らぎまで取り込もうとしている。シミュレーターを使った走行シーンでは、ヒヤリハットが再現された。右折時に対向車に気を取られ歩行者を見落とす典型的なリスクに対し、AIエージェントが一言添えるだけで、ドライバーに注意喚起が促せる。
夕暮れ、混雑、焦り──心理的要因が運転を乱す瞬間に、AIが介在し「事故の芽を摘む存在」へと変わろうとしているのだ。
