
この記事をまとめると
◼︎アステモはより最先端の運転支援技術も開発中だ
◼︎AIなどを用いてドライバーよりも先に状況を理解するシステムなども構築中だ
◼︎レアアースに頼らないモーターも開発中で数年後に実用化を予定している
バイワイヤー、AI、クラウド。クルマはここまで進化している
前回のリポートでは、ASTEMO(以下:アステモ)が開発するインホイール・モーターを取り上げた。だが彼らの挑戦はそれだけでは終わらない。電動化と電子制御の進化によって「クルマはもっと快適に、安全に、楽しくなる」という確信を、3台のプロトタイプは見事に体現していた。
今回のテーマはズバリ「運転の再発明」。人間がクルマを操る時代から、クルマが人間を支える時代へその境界線上に、アステモの技術がある。
■クロスドメイン総合制御「V01」
「しなやかさと俊敏性を1台に」。ついに贅沢な両立が実現した。ベース車は、ホンダが展開する中国専用BEV、「Ye S7」。ステアリング、ブレーキ、リヤステア、“すべて”バイワイヤー化し、ひとつの頭脳(ECU)で総合制御する。それが「クロスドメイン」。つまり、操舵も制動も後輪の向きも、1本の神経(信号)で繋がるクルマだ。
実際に走らせてみる。最初は「ロールスロイスのしなやかさ」。しかしモードを変えれば「BMWの鋭さ」。普通は天秤の両側にある性格なのに、このV01は状況に応じて瞬時に個性を変える。サスペンションの減衰力を伸び側・縮み側とも精密に制御できるため、「ギャップに強く」、「ピッチングせず」、「しかも排他的ではない俊敏さ」が光る。路面に吸い付くようなフラット感は、新しい高級車の概念になりうる。
さらにブレーキ制御が巧みだ。停止時はモーターとブレーキの制御が融合し、ノーズダイブが出ない。カックンと止まる人でも、止まり際が上手くなる。
「クルマ側がドライバーを上手く見せる」。こういう車両側の進化は、運転の本質を変えてしまうのではないか。
■自操支援「V02」
“任せない自動化”という、まったく新しい思想をこのクルマから感じることができた。Honda eを用いた「V02」は、「自動運転」ではなく「自操支援」だ。このシステムの名称は「MDS(マニュアル・ドライビング・サポート)」。
今回の試験は、狭い住宅街を模した専用コース。ベテランドライバーでも躊躇するような幅の路地から、先にある駐車スペースへ誘導するものだ。そこで驚くのは制御の“遠慮深さ”。もう少し具体的にいうと、「勝手にハンドルをまわす=✕」だが、「人にはわからないほどの微小操作で導く=○」といったような、自然な稼働をしてみせるのだ。
ステアリングがバイワイヤーなので、このように、機械が“軽く支える”という器用なことができる。しかしドライバーは、クルマのわずかな挙動やそれに対する修正を、「自分で操作している」と錯覚できるレベルにまで、機械側が自然に制御。まさに二人羽織の名人芸のようなシステムだ。
完全自動運転は「任せる」だが、アステモのV02は、「機械と一緒に運転する」ことができる技術だ。ドライバーのプライドは守りつつ、事故リスクだけを取り除く。運転の楽しさ、達成感、安心感を同時に提供してくれる。
高齢者向けの福祉技術としても、若者の運転体験向上としても、この価値は大きい。「できた!」を支える技術、アステモは、そういう方向を見ている。
