
この記事をまとめると
■車重が重い傾向の電動車のタイヤは空気量で荷重を受け止めるケースが多い
■幅広なタイヤは空気抵抗が増えるため大径+幅の細さが航続距離(燃費)に効果的だ
■BMW i3のような専用サイズのタイヤはユーザー側のハードルになるのが課題となる
EVで広がる大径で幅の細いタイヤの狙い
電気自動車(EV)を含め、電動車やハイブリッド車が増えるにしたがって、従来と違ったタイヤ寸法が採用される場合が出てきた。端的にいえば、外径が大きめで、幅は細めという寸法だ。横からの見かけは大径だけれど、あまり偏平でないタイヤともいえるだろう。
理由は、技術的あるいは性能的な背景がある。EVに限らず電動化すれば、車両重量が増える傾向になる。EVは駆動用バッテリーを車載することで、数百キログラムの重量増。ハイブリッド車でも、エンジン関係のほかに、モーターやバッテリーを車載することになるので、やはり車両重量は増加する。
タイヤのロードインデックスの記事で解説したが、タイヤの1番の役割は、そうした重さを支えることにある。溝の深さやグリップ力の大小より、重量を支えることが第一だ。重量を支えるのは、タイヤの構造もあるが、威力を発揮するのは充填されたなかの空気量になる。タイヤの構造だけでなく、十分な空気の量がなければ、タイヤは重さを支えられない。そこで、より径の大きなタイヤにすることで、内部の空気量を増やすことができる。
しかし、偏平タイヤでは、タイヤの横幅が広がり、空気抵抗が増えてしまう。床下に見えるタイヤの幅は、狭いほど空気抵抗が少ない。とはいえ、細身のタイヤで径が小さくては、空気量が足りなくなる。結果、電動車のタイヤは径が大きく、幅は細いという、これまでと違ったタイヤ寸法が採用されがちになる。
それを象徴するのが、ドイツのBMWが2014年に売り出したEVのi3だ。これには、ブリヂストンが開発したオロジックという特別な寸法のタイヤが標準装着された。明らかに大径で、極端な細身で、2輪車のタイヤのように見える。実際、細身のタイヤでアウトバーンも走れる高いグリップ力を確保するため、ブリヂストンは2輪レースの技術も応用したという。
しかしそれは、あまりに特別なタイヤ寸法であったため、汎用性がなく、たとえばスタッドレスタイヤに交換したいと思っても、当初はなかなか手に入れられないという事態も発生。ブリヂストンがオロジック用のスタッドレスタイヤを開発しなければならなくなった。結局、BMWもi3のあとは、そこまで特別なタイヤを採用しなかったし、ブリヂストン以外のタイヤメーカーも、i3のためのタイヤをあえて開発することはしなかったという経緯がある。
しかし、i3のオロジックが、電動車時代のタイヤ寸法の方向性を明らかにしたことは間違いないだろう。EVに限らず電動車は、大径で幅が細めのタイヤ寸法を選ぶようになり、将来的には偏平タイヤという言葉は死語のようになっていくかもしれない。
オロジックは、特別ではあったが、i3の外観の造形とよくあって、クルマとしての見栄えを損なってはいなかった。また、EVに期待される走行性能として、一充電走行距離の長さを保つには、空気抵抗への意識を変えてゆかなければならないのも事実だろう。
