
この記事をまとめると
■トヨタはクルマに使う鉄の一部に電炉材を導入すると発表した
■電炉材とは鉄スクラップで作られた不純物の多い鋼材のことだ
■環境にやさしい鉄として注目されている
自動車産業における電炉材がもつ可能性
トヨタが、クルマの製造に電気炉でつくられた鉄スクラップ100%の鋼材を活用するとの発表があった。東京に本社がある東京製鐵製の熱延鋼板を採用するとのことだ。
熱延鋼板とは、鉄がまだ熱いうちに押し延ばした板で、さらにその表面から酸化した皮膜を取り除いた製品を、酸洗鋼板と呼ぶ。酸洗鋼板は、メッキや塗装をしやすく、表面がきれいで加工しやすい特徴がある。
この酸洗鋼板を、電気炉で製造するのが東京製鐵の技術だ。これは鉄の材料を鉄鉱石ではなく、鉄のスクラップ(使用済みの鉄くず)をもとにすることで、コークス(石炭を蒸し焼きにした燃料)を燃やして鉄鉱石から鉄をつくる高炉に比べ、二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすことができる。
一方、鉄くずから造るため、製品に不純物が含まれる可能性があり、クルマで利用される高張力鋼板など、高品質な製品には向いてないといわれてきた。また、高炉に比べ生産量が少ないので、原価も高くなる傾向にある。
しかしながら、高炉で使うコークスは石炭そのものであり、酸素を含む鉄鉱石を還元することに役立つが、それはつまりCO2の排出を避けられないという事情がある。製鉄のCO2削減には不向きといわざるを得ない。そこで、電気炉からの製鉄に期待が掛かっているのである。
欧州が2035年からの実施を決めていた新車の排気からCO2の排出を100%削減する目標は、90%に引き下げられた。これによってエンジンの復権と日本では報道されているが、そう容易な話ではない。
実際は、90%の削減にあわせ、残りの10%は合成燃料などを使うことで補填するとともに(つまり既存のガソリンは使えない)、グリーン鉄を使うことが条件になっている。しかもグリーン鉄は欧州で生産された場合に限るという。
グリーン鉄とは、鉄くずを電炉で製鉄する今回の話に通じる、CO2排出量を削減した鋼板を意味する。この使用がEUで条件になる。しかもEU域内での生産となると、新車も現地生産しなければ、グリーン鉄を輸入して日本やEU以外の地域で生産したのでは、さらに原価が高くなり過ぎるだろう。また輸送中のCO2排出も懸念材料だ。
それなら、CO2の排出がない電気自動車(EV)に的を絞り、いかに上手に売っていくかという戦略をとるほうが容易との考えもあり得る。
トヨタが、東京製鐵の電炉を使った鋼板を新車に採用する試みは、技術の試行錯誤として重要性をもつ。高炉より原価が高く、品質で劣勢にある鋼板を、いかに使いこなし、あるいは改良して、高炉と変わらぬ使い道を見出す。それとともに、EUの手法がこの先世界市場でどのように採り入れられるか、市場の将来を読む重要性も帯びる。あるいは、EVメーカーに専念するかなど、日本の自動車メーカーの経営陣は頭を悩ませることになるだろう。
