
この記事をまとめると
■O/Dは高速走行時に燃費や静粛性を高めるために設けられた特別なギヤ比である
■かつての3速・4速ATでは高速走行時に燃費が悪かった
■ATの多段化によってトップ付近にO/D相当のギヤ比が組み込まれたため姿を消した
高速走行と燃費を支えた仕組み
ATではかつて、オーバードライブ(O/D)と書かれたスイッチがシフトレバーやその近くに設定されていたことがあるが、ほぼ見かけることはなくなった。O/Dスイッチとは、何であったのか?
現在のATは多段変速となっており、ギヤ比が細かく設定されている。しかし、かつては3速ATや4速ATが一般的で、ギヤ比が大きく開いていた。また、1960年代までは国内に高速道路はなく速度域が低かったので、一般公道を快適に走れる変速段数で十分だった。
1963年に名神高速道路が一部で開通し、その後に東名高速道路も整備されると、100km/h付近での走行が当然となった。その際、従来の変速段数のままではエンジン回転数が高くなり、騒音が大きくなるだけでなく燃費も悪化した。
社会情勢では、1973年にイスラエルとアラブ諸国による第四次中東戦争が起き、それをきっかけに石油危機が生じた。そして燃費が重要視されるようになった。
O/Dという機能は高速走行や燃費への要請を背景に設けられた。エンジンは回転数が低いうちは回転力(トルク)が十分でないため、ギヤ比の大小によってトルクを増大させている。速度が上がるに従いギヤ比の大小の差を縮め、エンジン回転数を下げて走るようにしている。これが変速機の役目だ。
当時はトップギヤでも、大小歯車の大きさが等しくなる1対1まででが一般的だった。しかし、そのまま高速で走ればエンジン回転数が高くなりすぎて燃費が悪化する。そこでエンジン側とタイヤ側のギヤの大きさを逆転させたのがO/Dだ。つまり、エンジン側のギヤが大きくタイヤ側のギヤを小さくしている。これにより高速走行でタイヤの回転数が早まってもエンジン回転を低く抑えることができる。
一方で、O/Dにするとエンジンブレーキの利きは弱まるため、摩擦ブレーキを酷使して利きを損なわないよう、下り坂などではO/Dを解除する必要がある。
このように、O/Dは高速で走る際の特別なギヤ比であるため、通常のATのDレンジではなく別にO/Dスイッチを設け、運転者に使うことを意識させるようにした。MTでもかつて4速が主流だったころにひとつ上の段を追加し5速とした際は、その5速がO/Dの役目を果たし、エンジン側のギヤを大きくタイヤ側のギヤを小さく設定していたこともある。
その後2000年ごろから多段変速が一般的になり、8段、あるいは10段変速さえめずらしくない時代に入ると、トップ近くのギヤ比は、エンジン側が大きくタイヤ側が小さなギヤの設定が当然となったため、あえてO/Dといわなくなった。
多段化の理由は、1970年代の石油危機とは別に1990年代以降に問題視された気候変動を抑えるため、二酸化炭素(CO2)の排出を減らすうえで速度域を問わず燃費の改善が不可欠となり、多段化して可能な限りO/D的なギヤ比で走らせるようにするためだ。
それでも、発進・加速などではエンジン側のギヤは小さくタイヤ側のギヤが大きいことがやはり不可欠なので、それでも余計な燃料消費をさせないため、コンピュータ制御で変速を細かく管理している。乗員が気づかないほど頻繁に変速するため、ギヤ比を細かくわけた多段変速になったのである。
