
この記事をまとめると
■路線バスの左側最前列「ヲタ席」が減少している
■最後部中央や運転席の真後ろなど座席ごとに異なる楽しみ方がある
■景色や音や振動を通じて路線バスの魅力を多角的に味わえる
バス好きならどこに座る?
バスファン(バスヲタ)にとって、乗車時にまず狙うべき座席といえば長らく「左側最前列の席」であった。通称「ヲタ席」とも呼ばれるこのポジションは、運転席が近い上に前面展望に優れていることから、バスヲタならずとも多くの乗客が座りたいと願う特等席であったといってよい。
しかし、今この席は急速に姿を消しつつある。コロナウイルス感染拡大として封鎖されるようになり、運転環境の向上や乗客の安全確保に加えて、車両構造の変化などといった理由により、新車導入のタイミングで座席自体が設置されなくなったのだ。最新のノンステップバスやEVバスでは、荷物置き場になっていることも多い。
至高の左最前列が奪われたとはいえ、新たな視点で熱視線を集めている「次世代ヲタ席」が存在する。それが、最後部5人掛けシートのど真ん中だ。一般の乗客からすれば、「両隣に人が来たら気まずい」「降りるときに通路に出にくい」と敬遠されがちだが、マニア的視点からは極上のエンターテイメント空間とされている
・車内の全景を見渡せるパノラマビュー
最後部の中央に陣取ると通路が一直線にフロントガラスまで抜け、前方の景色がシンメトリーの完璧な構図で目に飛び込んでくる。乗客の乗り降りの動線・車内全体の混雑状況・中扉の開閉プロセスなどを俯瞰できるため、バスというひとつの「社会」を観察するにはこれ以上ないポジションなのである。
・音と振動のダイレクト感
多くの路線バスにおいて、エンジンは車両最後部に搭載されている。すなわち、最後部席の中央席に座ればエンジンの鼓動をお尻と背中で感じることができるのだ。発進時の重低音・シフトアップに伴う唸り・減速時の排気ブレーキの作動音など、床下から湧き上がるメカニカルなシンフォニーを全身で浴びることができるのはこの席ならではの特権なのである。
特等席候補は、なにもここだけではない。楽しみ方のスタイルによって、「次世代ヲタ席」の有力候補はほかにもある。その筆頭は、「運転席の真後ろの席」だ。左最前列が消滅した今、運転手にもっとも近いポジションで、前面展望こそやや見えにくいものの、運転手がサイドミラー確認をする視線や無線を使用した営業所とのやり取り、さらには各種メーターパネルの動きを見ることができる。プロの仕事を間近で観察したいファンにとっては、まさにアリーナ席といえるのだ。
また、「タイヤハウス上の席」を好むマニアも少なくない。ここは足もとが狭く一般客には不人気だが、座面が高いため窓からの見晴らしが抜群によい。加えて、サスペンションの沈み込みやタイヤが路面のギャップを拾う感覚がダイレクトに伝わってくるため、「今、足まわりがどう動いているか」を脳内で分析しながら乗車できるという、マニアックな楽しみ方が可能なのだ。
そして、「最後部席の左端」も忘れてはならない。ここは左折時に後輪と縁石のギリギリのクリアランスを見下ろすことができる。長くて大きな車体を操る運転手の車両感覚の鋭さを、感じるには最高の場所なのだ。
バスの魅力はなにも一番前にだけにあるのではない。後方から見える景色や足もとから伝わる振動、あるいはプロの運転技術の観察など、座る位置を変えれば見慣れた路線バスもまったく異なる顔を見せてくれる。路線バスに乗る機会があれば、さまざまな角度からからバスの魅力を堪能してみてほしい。
