
この記事をまとめると
■6月11日に公布された「トラック新法」が「物流の2024年問題」を解決する
■過当競争とドライバーの低賃金問題は規制緩和がもたらした
■新法の「適正原価を下回る運賃・料金の制限」で値下げ競争に終止符を打つ
トラック新法による物流業界の改革の全貌
2025年6月4日、参議院本会議にて通称「トラック新法」が賛成多数で可決・成立した。正式には「貨物自動車運送事業法の一部改正法案」とその仕組みを支える「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法案」(やたら長い名称だが……)のふたつからなる法律で、6月11日に公布された。
1990年に制定された「物流二法」(貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法)による規制緩和により物流業界は自由競争化された。そして運送料金の値下げ競争が起こり、荷主と運送会社の間の力関係による歪みが生じ始める。それは賃金低下と労働時間の増加という形で現場のトラックドライバーに降りかかり、現在の「物流の2024年問題」として表面化した。今回のトラック新法は、その問題を法的に、かつ抜本的に解決するための法律であるのだ。
貨物自動車運送事業法の一部改正法案には、「トラック事業の許可更新制の導入」「運送委託次数の制限」「適正原価を下まわる運賃・料金の制限」「『白トラ』など無許可事業者への運送委託の禁止」「労働者の適切な処遇の確保」などが盛り込まれている。今回はトラック事業者の運賃の原価割れを防ぐ「適正原価を下まわる運賃・料金の制限」について考察していきたい。
規制緩和が招いた運賃ダンピングとドライバーの低賃金化
先ほどの1990年の物流二法(1990年問題と業界では呼ばれる)はバブル経済真っただなかに成立した法律である。当時、好景気のなかでトラックとドライバー不足が露呈した。そこで新法による規制緩和が実施され、運送会社は2万社、トラックドライバーは70万人にまで増加。当時の物流停滞はこうして解消された。しかし、その翌年から1993年にかけて、株価や地価の急落をきっかけにした「バブル経済の崩壊」が起こる。その影響で物流二法による規制緩和は裏目となり、運送会社の過当競争による現在の物流業界の問題点が発生することとなった。
「運送会社はいくらでもいるから」と荷主側は運賃を下げさせ、運送会社側も他社に仕事を取られまいとその要求に従い、その結果、現在のドライバーの重労働・低賃金という実情になっているわけだ。
規制緩和以前は映画『トラック野郎』の物語世界でもあるように、トラックドライバーはブルーカラーの花形で「稼げる職業」ともてはやされ、「3年走れば家が建つ」といわれていた(「5年走れば墓が建つ」ともいわれていたが……)。しかし、いまでは運賃のダンピングがドライバーの低賃金化を招き、その結果トラックドライバーという職業は若者たちの憧れる仕事ではなくなり、ドライバーの高齢化や人手不足という問題まで引き起こしている。