
この記事をまとめると
■DSが新たなフラッグシップとなるBEVモデル「N°8」を投入
■内外装はフランス車らしく独特な意匠だがフォーマルなまとまりを見せている
■十分な性能を確保しながら上質なドライビングを実現しており独自の魅力がある
フレンチブランドならではの新たな高級車
プレミアムBEV市場はいまや、テスラと中国車をボルボやレクサス、そしてドイツ御三家が追いかけるという激戦区となっている。そんななか、ステランティスのフランス車ブランドにおいてハイエンドを担うDSオートモビルが世に送り出したのが、新しい旗艦モデル「DS N°8(ニュメロユイット)」だ。
単なる「電動化ラグジュアリー」を超えて、フランス流の美学をBEVという領域で結晶させるという、優雅な佇まいとは裏腹のワイルドな野心を秘めたこのモデルに、スイスとフランス国境で試乗してきた。
外観の第一印象からして相当に強い。ボディタイプはプレミアムDセグで流行りの「SUVクーペ風ファストバック」だが、すでにマクロン仏大統領が公用車としてパレードでも使用したように、カジュアルさ以上にフォーマル感を漂わせる。
タイヤ&ホイールの足もとからウエストラインまではSUV風の力強さ、そこから上のキャビンからルーフラインにかけては、むしろサルーンの端正さが織り込まれている。なのにチグハグではなく、エッジが効いていて彫像のようなまとまり感がある。好き嫌いは思い切りわかれそうだが、流行のクーペSUVとは一線を画す、独特のスタイリングであることは確かだ。サイズは全長4820×全幅1900×全高1580mm、ホイールベースは2900mmとなる。
フルLEDのヘッドライトやリヤコンビネーションランプは、日中走行灯として下に伸びた部分まで光るが、ブレード状に整流することで空力デバイスとしても機能する。照らすより光の演出を担う、グリル内の「ムスタッシュ(口髭)」状の照明もフランスっぽい。
ツートンカラーのボディは、クラシックな雰囲気でありながらグラフィック自体は現代的で、新鮮さもある。高級ホテルの車寄せに違和感なく溶け込むであろう佇まいは、同じセグメントのBEVに多いSUVクーペまたは腰高ファストバックのカジュアル・スポーティな雰囲気とは対照的で、むしろフォーマルな雰囲気すら漂う。
インテリアにも、フランスらしさが際立つ。五感品質とはよくいわれるところだが、ドアパネルからダッシュボード、シートやセンターコンソールに至るまで、目線に近い高さでぐるりとナッパレザー張りの部位に柔らかく囲まれる甘やかな感覚は、家具や調度品のような高級車とは一線を画す。
シート形状は上に向かってスリークになるスポーティなカタチでありながら、座り心地はソフトで、それでいて左右方向のサポートもしっかりしている。前席にはネックウォーマーとマッサージ機能まで備え、後席にもヒーターとベンチレーターが備わっている。マクロン大統領の例を挙げるまでもなく、本国では当然ショーファードリヴンも考えられる車種だが、むしろ乗員をゲストとして迎え入れるドライバーのホスピタリティのために備わる雰囲気だ。