
この記事をまとめると
■メルセデス・ベンツは「F015」で移動空間の概念を変える未来像を提示した
■巨大スクリーンや自動運転思想は着実に現実化
■完全自律には至らずも技術は確実に進化している
かつての衝撃コンセプトは現実へ
2015年1月。CES(米国国際家電見本市)で、メルセデス・ベンツは度肝を抜くコンセプトカー「F015」を世に放った。まるでSF映画から飛び出してきたかのような継ぎ目のない一体成型のボディが衝撃的であったが、そのインテリアも同様に、あるいはエクステリア以上に強烈だった。
F015の室内はまさに「デジタルアリーナ」と称されるもので、巨大なスクリーンが室内に敷き詰められていた。インストゥルメントパネル、リヤパネル、サイドパネルに配置された6つのスクリーンが車内空間を覆い、乗員はそれをタッチのほかジェスチャーや視線の動きで操作することができた。
完全自動運転時には、前席は後ろを向いて対面シートに変わり、4つのラウンジチェアが互いを向くような構成が実現し、ステアリングはダッシュボードのなかに収納される。LEDの色が自動運転中は青、手動運転時は白に変わることで、クルマの状態を乗員と周囲の歩行者に同時に伝える仕組みまで実装されていた(このシステムはのちにカリフォルニア州など一部地域などで実用化された)。
F015の核心にあったのは、「クルマは輸送手段ではなく、移動するリビング・スペースになる」というテーゼだ。「技術だけに集中する人には、自動運転がいかに社会を変えるか理解できません。自動車は単なる輸送手段という役割を越えて、移動するリビング・スペースになります」当時のダイムラー取締役会会長、ディーター・ツェッチェはこう語った。
さて、10年と少し前に世へ出たときは荒唐無稽とも捉えられたこのクルマだが、いま思い出せば、現実は静かに追いついてきているようにも見える。
2026年4月に発表された新型Cクラスには、オプションとして「MBUXハイパースクリーン」が用意される。キャビン全幅にわたる39.1インチの高解像度ディスプレイがダッシュボードを覆い、スクリーン上の情報はAIが提案。OpenAI ChatGPT、Microsoft Copilot、Google Geminiという3系統のAIモデルが「マルチエージェント・アプローチ」で常時待機する。
もちろんF015の6枚スクリーンと、Cクラスの1枚の超大型スクリーンは形状も用途も異なる。だが、ダッシュボードに巨大なディスプレイが横たわっているさまは、F015を思い出さずにはいられない。
F015が発表された当時、メルセデスが想定した実現の時間軸は「2030年以降」だった。2026年現在の様相を見る限り、F015が描いたような完全な自律運転と、それをベースとしてクルマを構成することは、規制と技術の両面において直ちには実現しそうにない。
しかしながら、電動Cクラスには計27個のセンサーとカメラが搭載され、自動レーンチェンジといった最先端の内容を含む走行アシストをオプションで選ぶことができる。3D拡張現実ナビゲーションも用意された。完全な自律運転システムこそ搭載されてはいないが、その実現が徐々に近づいていることを感じさせる内容である。
F015が掲げた、自動運転による自動車の変革。予言は静かに、しかし確実に現実になりつつあるのではないだろうか。
