
この記事をまとめると
■自動車業界には業界が追いかける指標になる存在がある
■トヨタは各メーカーが目標にするクルマを数多く手掛けてきた
■最近ではEVが増えてきたことでテスラやBYDも業界を牽引する存在になっている
自動車業界を牽引する偉大なる存在たち
トヨタのカローラは、競合他社にとってのベンチマークというだけでなく、トヨタ自身にとっても新車開発の指針となってきたのではないだろうか。
初代カローラは、競合の日産サニーと同じ年に誕生し、以後、両車は好敵手として人気をわけた。カローラの価値を際立たせたのは、初代の開発主査を務めた長谷川龍雄による「80点主義+アルファ」という思想だったはずだ。
大衆車という区分けのなかで、初代サニーは廉価でありかつ性能を満たしたクルマだったが、初代カローラは、一定の性能を満たしながら、個人の好みや喜びを感じさせるプラスαの魅力を追加した。たとえば、白い車体に赤い内装という選択肢があった。単に実用性を満たすだけなら、そのような内装はなくてもよかったはずだ。
プラスαという考え方が、今日までカローラを存続させ、また世界で数多く販売される小型車という価値をもたらしたのではないだろうか。
さらに、トヨタのほかの車種においても、ひとつの手本となったのではないだろうか。
たとえば、クラウンにおいても「白いクラウン」という憧れをもたらし、単に白いというだけでなく、輝くような白色の価値を生み出した。そもそも白の塗装は耐久性に優れ、美しくかつ長もちする複合的な価値の創造になった。
あるいは、コロナという小型車の基本がありながら、カリーナやセリカといった個性的な車種が生まれたのも、一定水準の性能や実用性という価値を備えながら、プラスαの選択肢をもたらすことにつながったと感じる。
ほかにも、エスティマが誕生したとき、単に室内空間の広いワンボックス車というだけでなく、想像を超えた造形の面白さや、室内の静粛性を加え、そのためにあえて運転席下に搭載されるエンジンを横へ75度傾けることまでしてのけた。
ある時代、トヨタ車は、実用的で性能も満足でき、耐久性にも優れるが、面白みに欠けるといった風評が立ったことがある。しかしその反面、他に例を見ない新たな価値を備えた新車を誕生させている。その根底に、初代カローラの「80点主義+アルファ」の思想が伝承され続けていると思わざるを得ないのである。
テスラは、新興の電気自動車(EV)メーカーだ。
量産市販となるモデルSが2012年に発売されてからまだ14年しか経っていない。創業自体は2008年で、ロータスの車体を用いたコンバートEVとなるロードスターを導入したが、そこから数えても18年しか経ていない。
しかし、米国カリフォルニア州には、1990年代からZEV法の導入を通じてEVに詳しい新興企業や技術者が集まっており、それを下地としたテスラの事業展開には、イーロン・マスクの資金力がいかんなく発揮された。
モデルSの投入時から、今日に通じる大型画面を用いた操作に重点を置き、スマートフォンと同じように直感的なタッチ操作で装備を機能させることを始めた。
歴史ある自動車メーカーもさっそく真似てみたが、エンジン車を開発してきた経験から脱却するのに手間取り、テスラのようなスイッチ類の省略をまだ十分活かせずにいる。
テスラの取り組みに関しては、車両開発にとどまらず、充電網を自ら敷設したことも忘れてはならない。そして結果的に、米国内での充電方式の標準となった。
このテスラをベンチマークとして追う象徴的な存在が、中国のBYDではないだろうか。
当初から大画面を用い、画面を回転させることで縦と横を使い分ける独自性を加えながら、自らリチウムイオンバッテリー開発も行い、ついにはテスラを販売台数で追い越すまでになった。
車両だけでなく、急速充電網の整備にも手を付けるようになっている。
EVを本格的に普及させる鍵は、単に排気ゼロの環境性能だけでなく、モーター駆動を活かした自動運転への道筋を描くことと、充電網の整備を自ら行うことにある。
出てくる新車の商品性が必ずしも同一ではなくても、車両開発と充電網の整備、それを活かすバッテリー技術への投資という3つの鍵を明確にしたのがテスラであり、BYDも同様の意思をもってEV市場を牽引していこうとしているようにみえる。
