
この記事をまとめると
■ニュルブルクリンクにおける「最遅記録」が66年ぶりに更新された
■かつてF1やル・マンに参戦していたリジェが手掛けたマイクロカーが記録した
■50ccのディーゼルエンジンを搭載しており28分25秒を記録した
スポーツカーブランドがニュル”最遅”記録を更新!?
先ごろ、ニュルブルクリンクで66年ぶりの記録となるラップタイムが出ました。やれ、ポルシェがどうした、ホンダがどうしたとにぎやかなコースですが、この記録は最速ラップではなく世にも珍しい「最遅記録」すなわち、目いっぱいアクセル踏んで走ったにもかかわらず圧倒的に遅い! とされてしまった記録です。誰もが速いクルマは思いつくことでしょうが、もっとも遅いとなると想像もつかないはず。それにしても、ニュルブルクリンクはいろんな使い道があるものです。
さて、66年もの間破られることのなかった16分01秒という最遅タイムを記録したのは、東ドイツの「トラバントP50」。ご存じのとおり、紙とプラスチックの合成樹脂とやらで構成され、古臭い2ストロークエンジンを搭載した共産圏のマスコット的な存在です。ちなみに、当時の東ドイツの人々にとっては、10年待ってようやく手に入る「家族の憧れ」そのもの。記録を樹立した1960年といえば、冷戦のさなかであり、そんなタイミングで西側までトコトコやってきて、ブイブイとニュルを走ったわけですから、ちょっとした胸アツストーリー。
ですが、そのボール紙マシンよりさらに12分も遅いクルマが登場しました。28分25秒という記録を打ち立てたのは、フランスの「リジェ JS50」なる最新モデル。オールドファンなら、リジェと聞いて「おや?」っと首を傾げるかもしれません。なにしろ、リジェはかつてF1で一時代を築き、ル・マンでも独創的なマシンを走らせた名門ファクトリー。そんなリジェが、いまや欧州で「運転免許のいらないクアドリサイクル(軽四輪車)」のトップシェアを誇るメーカーになっているとは、誰もが意外に思うはず。しかも、JSの車名は代々レーシングカーで使われてきたものですから、なんだか感慨深さまであるのかと。
この聞きなれないクアドリサイクルというのが記録のキモでして、49.8ccのディーゼル2気筒エンジンを搭載し、8馬力/27Nmというパフォーマンスから、最高速45km/hというなかなかの鈍足仕様(笑)。リジェの名誉のために付け加えると、このクラスの車両は最高速が法規によって制限が課されているからで、リミッターカットで80km/hには届くだろうとされています。
無免許で乗りまわせるため、むしろハイパフォーマンスは危険ということで、トラバントより遅いくらいがちょうどいいと判断されたのかもしれません。もっとも、無免許マイクロカー=乗用車の下位互換というイメージを嫌ったか、リジェは電動パワステをはじめ、大画面タッチスクリーンやバックカメラなど一般的な乗用車に匹敵する装備を施しています。
ところで、ニュルブルクリンクでの最遅記録への挑戦は、昔から戦略的だったリジェのしたたかなマーケティングによるものに違いありません。欧州では、14歳から乗れるこの手のマイクロカーが都市部の若者や高齢者の重要な足として急成長しており、リジェは「我が社のシティコミューターは、あの地獄のニュルを28分間全開で走り続けても壊れないタフさを持っている」という性能を、世界に証明してみせたわけです。牙を抜かれたわけでも、日和ったわけでもなく、闘い方を変えたレース屋の執念さえ感じられるというものでしょう。
一方で、リジェにとっては「クルマなんて、これくらいのスピードでも面白いんだよ」という、現代のハイパフォーマンス至上主義に対する強烈なアンチテーゼとか達観のようにも思えてきます。実際に45km/hでニュルを走ってみれば、後ろから鬼のように迫ってくる911GT3やら、ゴルフGTI、はたまたシビック タイプRにビクビクするわけで、たしかにそれはそれでおもしろドライブになることでしょう。
