
この記事をまとめると
■フォークリフトは物流現場において欠かせない存在だ
■爪の扱いは誤ると大事故につながる
■ベテランほど爪の扱いには細心の注意を払っている
爪はバンパーではない!
倉庫や市場、工場の構内などで見かけるフォークリフトは、荷物を運ぶための働くクルマである。車体はコンパクトで、小まわりも利く。大きな荷物を軽々ともち上げて移動する姿を見ると、慣れた作業者なら簡単に扱っているようにも見える。けれど、フォークリフトには一般のクルマとはまったく違う危険がある。そのひとつが、前方に伸びた“爪”、つまりフォークの扱いだ。
フォークリフトの爪は、荷物をすくい上げるための重要な装置である。パレットの差し込み口にフォークを入れ、荷物をもち上げ、目的の場所まで運ぶ。作業そのものは単純に見えるが、走行中のフォークの高さには細かな注意が必要になる。なかでもやってしまいがちなのが、荷物を載せていない状態でフォークを少し上げたまま走ることだ。地面に当たらない程度なら問題ないように思えるが、じつはこれがかなり危ない。
理由のひとつは、フォークそのものが人や物に刺さる危険をもっているからだ。フォークリフトの爪は、先端が前方へ長く突き出している。少し上げた状態で走ると、人の足もとではなく、すねやひざの高さに近づくこともある。作業場では、荷物の陰から人が出てくることもあれば、通路の角で台車やパレットとすれ違うこともある。そのとき、フォークの先端が目立たず、相手が気づきにくい位置にあると、思わぬ接触事故につながる。
もうひとつの理由は、フォークリフトの重心にある。フォークリフトは、前で荷物をもち上げる構造のため、後部に重りをもたせてバランスを取っている。荷物やフォークを高く上げるほど重心は不安定になり、急ハンドルや段差、傾斜で車体がふらつきやすくなる。ほんの少し上げただけでも、走行中の安定性に影響が出るのもフォークリフトならではの特徴のひとつだ。とくに荷物を積んでいる場合、重心が高くなるほど転倒の危険が増えるが、これは普通のクルマでいえば、屋根の上に重い荷物を積んだまま曲がるようなもので、見た目以上に不安定になるのだ。そのため、できるだけ爪は低い位置に収めておくべきなのだ。
また、フォークを上げたまま走ると、前方の死角も大きくなる。フォークリフトはもともと前方にマストがあり、荷物を積めば視界はさらに遮られる。大きな荷物を運ぶときに後進走行することがあるのも、前が見えない状態で無理に進まないためだ。つまり、フォークリフトは小さな車体でありながら、視界、重心、旋回特性のすべてに独自の注意点がある乗り物なのである。
フォークリフト経験者でない人からすれば「少しぐらいなら爪を上げても大丈夫」と考えがちだが、フォークリフトのフォークはバンパーではない。荷物をもつための金属の腕であり、扱いを間違えれば刃物のような危険物にもなる。だからこそ、走行するときにはフォークを必要以上に上げない、荷物は低い位置で運ぶ、視界が悪ければ無理をしない、周囲の人や障害物を常に確認する、といった基本が徹底される。
フォークリフトの安全ルールは、単なる職場の決まりごとではない。重い物をもち上げて走る機械だからこそ、一般のクルマとは違う危険の見方が必要になる。爪を少し上げて走らないという一見細かなルールにも、人を傷つけず、荷物を壊さず、車体を転倒させないための理由が詰まっている。倉庫のなかを静かに走るフォークリフトは、じつはかなり繊細な危険予測が求められる乗り物なのである。
