
ラインクルーズ中に訪れた飛行機〜列車まである博物館
今回紹介するシュパイヤー技術博物館には、これまでに2010年の9月と2023年の7月と、都合2度訪れています。いずれもが、同館の本館として位置づけられているジンスハイム交通技術博物館と合わせて1日で巡るスケジュールでした。ふたつの博物館はクルマで1時間程度の近距離にあるので、これは間違いなく効率的です。
ただし今回は、家内と一緒にラインクルーズを楽しんでいる最中に訪れることにしたので、クルーズ船のアマデウススター号が着岸したヴァイキング・ドッグから歩いてエントランスを目指したのでした。地図で一見したところでは至近距離にあったのですが、入場時には勝手がわからずに外周路をほぼ半周してしまったようです。帰りは出口から数分でクルーズ船に辿り着いていました。
シュパイヤー技術博物館は1991年にジンスハイム交通技術博物館の分館としてオープンしていますが、クルマだけでなく飛行機や船や列車など、さまざまな乗り物が展示されています。大柄な航空機や船舶、鉄道車両は屋外に展示されているのですが、メインの展示棟は屋根が高く天井も吹き抜けとなっているので、小型の航空機や一部の鉄道車両のは屋内に展示されています。
展示台数こそ少ないが内容はビギナーに最適
そんな雑居な展示棟ですが、ここでの主役もやはりクルマです。本館に当たるジンスハイム交通技術博物館では、大きな展示棟2棟をフルに使ってクルマが展示されていたのと比べると、ボリューム的には「物足りない」というのが正直なところ。2023年に訪れてWEBで紹介した際には、「入館料を払わずに仲木戸手前に展示してあるF1マシンだけを見て帰ってもよかった」などと酷評もしたのですが、今回はちょっと印象が違い
ました。というのは自動車博物館ビギナーの家内と一緒だったこともあって、展示車両の成り立ちなどを紹介しながらまわることになったのです。
この状況だと、少し物足りないくらいの台数が適度なボリューム感になったのです。しかもロードカーだけでなくF1マシンなどのレーシングカーから、トラックや消防車などの”働くクルマ”までが揃っているのですから、説明にも力が入ります。そして、家内も興味深そうに説明を聞いてくれて……いるように感じました。要するにシュパイヤー技術博物館は「クルマビギナーにはお奨めの自動車博物館」ということになります。もう一歩踏み込んで、本館であるジンスハイム交通技術博物館も訪れたなら、もう完璧です。
展示車両についても少し紹介しておきましょう。ダイムラー・トラックのガゲナウ工場の祖となった、世界最古の自動車工場で生産されたトラック「ガゲナウLKW」から、マギラス製の消防車、そしてルイジ・コラーニが手がけた前衛的なデザインのトラクタまで古今のさまざまな”働くクルマ”が集合している自動車博物館は、ほかにあまり例がありません。
1909 Gaggenau LKW
ガゲナウLKW(独語でトラックの意)は、南ドイツのガゲナウで19世紀末に竣工開業した世界最古の自動車工場で、20世紀初頭に生産された。ドイツにおけるモノづくりと工業製品市場の長い歴史を物語っている。
1909 Gaggenau LKW画像はこちら
1995 Colani-Truck MB
生物的な曲面を持ったデザインで知られる工業デザイナーのルイジ・コラーニが、”自然”をテーマに手がけたトラクターヘッド。フロントウィンドウにある回転式のワイパーが、スリーポインテッドスターを思わせるのはご愛敬だ。
1995 Colani-Truck MB画像はこちら
またサンビームやジャガー、オースチン・ヒーリーといった英国製のスポーツカーと対比させながら、ポルシェ356に端を発するドイツ製スポーツカーの歴史を振り返る展示も流石です。
1927 Sunbeam 3L Twin-Cam
2920ccの直列6気筒DOHCエンジンを搭載したサンビームの2座オープンスポーツ。いまから100年近くもの昔に、このスペックのエンジンを搭載していたとは、英国のモノづくり技術志向もなかなかだ。
1927 Sunbeam 3L Twin-Cam画像はこちら
1937 Jaguar SS
当初はオートバイのサイドカー製作から活動を開始したSSカーズ(ジャガーの祖)の製品で、初めてジャガーを名乗ったモデルが1935年に登場したジャガーSS。戦後には社名・モデル名ともにジャガーに改称した。
1937 Jaguar SS画像はこちら
1960 Austin Healy Sprite
いまも人気の高いオープン2座のライトウエイトスポーツがオースチン・ヒーリー・スプライト。ヘッドライトは、当初リトラクタブル式だったが、最終的には固定式に変更。”カニ目”のニックネームで親しまれている。
1960 Austin Healy Sprite画像はこちら
1964 Porsche 356 C
ポルシェ博士が手がけたVWビートルをベースに、息子のフェリーが開発したスポーツカーがポルシェ356。ベルリン・ローマ速度記録車に習って空力をイメージしながらも、軽量コンパクトというスポーツカーの原点を追求していた。
1964 Porsche 356 C画像はこちら
しかし何よりも戦前のBMW309やメルセデス・ベンツの170H、あるいは戦後のBMWイセッタ250などドイツ車の底流に流れる軽量コンパクトを追求したモデルたちには、とても興味がそそられました。
1934 BMW 309
BMWはオースチン・セブンのライセンス生産から4輪に進出。1933年には初のオリジナルモデルとなる303をリリースした。309は6気筒エンジンを4気筒に換装した弟分で、どちらもキドニーグリルを装着していた。
1934 BMW 309画像はこちら
1937 Magirus KS-15
消防車の最大メーカーとして知られるマギルスは1975年にイヴェコ傘下となって、現在は同社の大型トラックに消防設備を架装した消防車を数多く生産している。KS-15は自前のシャーシにクローズドボディを架装したモデル。
1937 Magirus KS-15画像はこちら
1955 BMW Isetta 250
大戦で敗戦国となり疲弊したドイツ(当時は西ドイツ)のBMWが戦後、イタリアのイソ社からライセンス供与を受けて生産したマイクロカーがイセッタ250。BMWの経営を支え、戦後復興も牽引した。
1955 BMW Isetta 250画像はこちら
1938 Mercedes-Benz 170H
大型/中型乗用車を数多く手がけてきたダイムラー・ベンツは、小型車にも進出すべくリヤエンジンにトライしていた。170Hはその最終モデル。当時在籍していたフェルディナント・ポルシェ博士が手がけたとも伝えられている。
1938 Mercedes-Benz 170H画像はこちら
1964 Townsend Typhoon MK4
GM製の5.7リッターエンジンをミッドシップに搭載したグループ7規定のレーシングスポーツカーがタウンゼント・タイフーンMK4。フランク・タウンゼントなどの高校生たちが協力して製作した、手作りのマシンだ。
1964 Townsend Typhoon MK4画像はこちら
1968 Lotus Europa S2
ロータス・セブンの後継として1966年に登場したロータス・ヨーロッパは、文字どおりヨーロッパ(大陸)向けに開発されたモデル。この個体は左ハンドルだが、1968年に登場したS2は英国向けの右ハンドルもラインアップしていた。
1968 Lotus Europa S2画像はこちら
1986 Tiga GT286 Buick 3L V6
元F1ドライバーのティム・シェンケンと、ハウデン・ガンリーが英国で設立したコンストラクター「ティガ」が1986年に製作したグループ2規定のレーシングプロトタイプがGT286。IMSAのGTPライトにも準拠し、WECとIMSAで90年代序盤まで活躍した。
1986 Tiga GT286 Buick 3L V6画像はこちら
1988 Arrows A10B・Megatron-BMW 1.5L In-Line 4 Turbo
アラン・リースやジャッキー・オリバー、トニー・サウスゲートらが興したコンストラクター「アロウズ」が1988年シーズン用に開発したF1マシンがA10B。BMWがプライベートへの供給を停止したエンジンのライセンス契約を買収し、「メガトロン」と命名して搭載。エンジンチューナー「ハイニ・マーダー」でメンテナンスを行った。
1988 Arrows A10B・Megatron-BMW 1.5L In-Line 4 Turbo画像はこちら
シュパイヤー技術博物館 Technik Museum Speyer
Am Technik Museum 1, D-67346 Speyer, Deutschland.
https://speyer.technik-museum.de/en/
毎日開館。開館時間は9:00~18:00(土日休日は9:00~19:00)
入館料は€25.00(邦貨換算、約4410円)。
シュパイヤー技術博物館画像はこちら
今回はライン川クルーズの一環として、ライン河畔のヴァイキング・ドッグから10分ほど歩いて入館したのだが、本館にあたるジンスハイム自動車・技術博物館からはクルマで30分ほどの至近距離に立地しているため、クルマで訪れるのがおすすめ。フランクフルト空港からは南に100㎞弱、1時間足らずでアクセス可能なので、早朝着のルフトハンザやANAの直行便ならその日のうちに両館をはしごすることもできる。ただし日本からの多くの直行便は夕方着なので、前泊で心身ともにリフレッシュし、翌朝から活動開始するのがベストだ。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年1月号」の記事を再構成して掲載しています
