
この記事をまとめると
■ヘネシーが新型ハイパーカー「ブラックバード」を発表
■デジタルデバイスが極限まで廃され自然吸気V8エンジンに6速MTを組み合わせる
■価格は約3億7500万円で71台のみが生産される
時代に逆行する異端のアナログ思想
こと現代において、クルマのインテリアは液晶パネルと電子デバイスの洪水といった様相を呈している。ダッシュボードに横たわる巨大なスクリーン、ボタンレスのタッチ操作、液晶メーター。それはスポーツカーやスーパーカーであっても例外ではなく、どのメーカーでも似たような「デジタルの壁」がドライバーを出迎える。
チューニングメーカーでありスーパーカーメーカーでもある米国ヘネシーが送り出すニューモデル、「ブラックバード」のコクピットには、スクリーンが1枚たりとも存在しない。
ドライバーの正面には5つのアナログメーターが並び、中央に10000rpmまで刻まれたタコメーターを据えるシート間のロータリーノブで走行モードを切り替える。イグニッションキーまでがアナログ式で、コクピットの主役はゲート式のシフターと露出したシフトリンケージである。
この天邪鬼にさえ見える割り切りは、メカニズムにも共通する。パワートレインにはハイブリッドシステムもデュアルクラッチトランスミッションも、ターボすら備わらないのだ。それらを排したかわりに選んだのは、英国のF1エンジンスペシャリスト「Ilmor Engineering」と共同開発した完全専用設計の6.2リッター自然吸気V8エンジン。その目標出力は850馬力で、最高回転数は9000rpm超を許容。この市販車の自然吸気V8として世界最高峰クラスの出力を、6速MTを介して後輪に伝達する。
「ブラックバード」という車名はロッキードが製造したマッハ3超の偵察機「SR-71 ブラックバード」から取られた。リヤ部分の縦型スタビライザーはモーター駆動で動作し、SR-71の垂直尾翼を視覚的に模している。世界でもっとも速く飛ぶ空気吸入式航空機と同じ名前を冠し、「高いパワーウエイトレシオによる爆発的な加速」という思想を地上で実現するというコンセプトだ。
目標車重は3000ポンド(約1360kg)以下となり、カーボンファイバー製のモノコックタブと完全カーボンコンポジットのボディパネルがこれを支える。この軽量ボディとハイパワーユニットの結果として、0-100km/h加速は2.5秒、最高速度は354km/h(220mph)というスペックがアナウンスされている。現代のハイパーカーが2トン超に迫る重量で開発されているなか、この行きすぎてさえいるアナログ思想が生む軽量さは数字として明確に機能しているといえるだろう。アダプティブサスペンション、ABS、トラクションコントロールといった最低限の安全装備は備わるとのことだ。
ブラックバードはヴェノム GTとヴェノム F5に続くヘネシー3台目のハイパーカーで、F5の後継ではなく並列して存在する異なるフラッグシップだ。F5が最高速度の記録に向けて設計されたのに対し、ブラックバードはドライバーの関与、長距離ツーリング時の快適性、そして年月を経ても色あせないデザインを優先している。
価格は250万ドル(邦貨換算約3億7500万円)で、生産台数は71台。量の希少性ではなく、思想の希少性で価値を主張する1台のローンチを楽しみに待ちたい。
