
この記事をまとめると
■トヨタでは販売会社との対等な関係が「売れるクルマづくり」を可能にしてきた
■アルファード&ヴェルファイアは情緒的価値を重視した設計で高価格でも人気を獲得
■PHEVは割高だが上級志向の顧客を見据えた戦略的価格設定といえる
「売れるクルマづくり」のウラにはトヨタ特有の事情があった
トヨタは商品開発から販売まで、物事を周到に進める。自動車メーカーが国内を中心に商売をしていた1960年代の初頭から、トヨタのこの周到さは確立されていた。
その根源にあるのは、一部を除いて販売会社がメーカーとは別の資本で成り立っていることだ。メーカー直営が多い他社に比べると、トヨタは販売面のリスク負担を減らせる反面、販売会社との立場は対等だ。トヨタのクルマづくりは、販売会社から厳しくチェックされ、「いいクルマ」ではなく「売れるクルマ」を開発してきた。
この「売れるクルマづくり」はいまでも続き、その代表格がアルファード&ヴェルファイアだ。数回にわたってプラットフォームを刷新したから、技術的にはフロアをさらに低く下げることも可能だ。フロアを低く抑えれば、乗降性が向上して重心も下がり、ボディは軽くなる。必要な室内高を確保した上で、天井も低くできるから、走行安定性、乗り心地、動力性能、燃費性能などすべての機能が向上する。
しかし、アルファード&ヴェルファイアは、そのようなクルマづくりを行わない。全高は相変わらず1900mmを上まわり、高重心でボディは重く空気抵抗も大きい。天井と床を下げない理由は、まずひとつ、高い全高を活かしてフロントマスクに厚みをもたせれば、外観の存在感が強まるからだ。これはアルファード&ヴェルファイアがルームミラーに映ったときのことを思い出せばわかるだろう。
車内に入ってシートに座ると、床が高いために見晴らしがよい。着座位置が高ければ、ドライバーにとって左側面の死角が大きいから安全面では好ましくないが、乗車中の気分はよい。
つまり、立派な外観と見晴らしの利く着座位置は、クルマの機能としてはメリットが乏しいが、ユーザーや乗員の情緒的な価値を高める。「いいクルマづくり」とは異なる「売れるクルマづくり」の典型だ。アルファード&ヴェルファイアを観察すると、トヨタ車が売れる理由を深く理解できる。