
この記事をまとめると
■日産マーチは同社を代表するコンパクトカーだった
■初代マーチにはターボとスーパーチャージャーを搭載したモデルがあった
■マーチスーパーターボはハイパワーなエンジンを搭載するも運転が難しいモデルだった
ターボにスーチャーを組み合わせるという夢みたいなクルマ
1980年代の国産車の「秘密兵器」といえば「ターボチャージャー」でしょう。続いて「スーパーチャージャー」という過給システムも導入されて全メーカーで高出力化が盛んに行われるようになりますが、その時代、ファンタジーゲームの発想のように「魔法も剣も使えたら最強じゃん!」とばかりに「ターボとスーチャーを合体させたらどうなるんだろう?」という期待を胸に秘めていたクルマ好きはけっこういたのではないでしょうか。
しかし期待に反して、その夢のコラボを実現した例はひとつしかありませんでした。ここではその唯一の例となった「日産マーチ・スーパーターボ」を紹介していきましょう。
若者向けのコンパクトカーに当時最強のエンジンを載せた快挙
ここで注目する「マーチ・スーパーターボ」は、1982年に発売された「K10系マーチ」の派生モデルです。「世界規模でコンパクトなリッタークラスをリードする」という大きな目標を掲げて、当時の日産の未来を掛けて開発されました。多くの労力とコストが投入されたこのモデルは大ヒットを記録して日産の歴史に殿堂入りするほどの売り上げを獲得しますが、勢いに乗った日産は3年後のマイナーチェンジでターボチャージャーを装備した「マーチターボ」を追加して追い打ちをかけます。
そして日産はこの当時、人気の高かったWRCなどのラリーにも積極的に参戦を表明していて、競技専用モデルの「マーチR」を投入してスポーツイメージの強化も図っていました。
「マーチR」の市販版として1989年にリリースされたのがこの「マーチ・スーパーターボ」です。最大の特徴は搭載されるエンジンです。名前から、“スーパー(特別)”なターボを装備していることは想像できるでしょう。このクルマには、おそらく今まででも日本で唯一のツインチャージャーを装備したエンジンが搭載されています。
ご存じのように「ターボ(チャージャー)」というのは、排気のエネルギーを活用して吸気の充填=過給する機構のことです。本来マフラーからただ出て行ってしまう排気のエネルギーを吸気に転用できるため、自然吸気の何倍もの出力を得ることができます。このターボが市販車に搭載されるようになった1980年代ころは、同じ排気量なのにひとまわり以上大きな出力を発揮することから、車体に「TURBO」と誇らしげにアピールするほどの武器として扱われていました。
しかし、ターボは欠点があります。排気の勢いで過給するため、勢いが少ない低回転域では吸気をうまく過給できず、抵抗になってパワーダウンする場合もありました。一方、低回転からしっかり過給ができるのがスーパーチャージャーです。クランクシャフトから直接動力を取り出してコンプレッサー(過給器)を作動させるため、排気の勢いが少ない低回転でも確実に過給できます。ただ構造上、高回転が不得意です。
ならその両方のいいところを合わせたら、低回転から高回転までずっとイイ感じの過給ができると思いますよね? それを市販車のエンジンで実現してしまったのがこの「マーチ・スーパーターボ」なんです。「スーパーチャージャー+ターボチャージャー=スーパーターボ」というわけです。