
この記事をまとめると
■トヨタが掲げる「Mobility for All」を具現化した革新の運搬車両が「IMVオリジン」
■未完成の構造で現地ニーズに合わせて自由にカスタムできる新たな発想を取り入れている
■社会課題の解決を目指し現地の人々と共に創るモビリティの新境地となる
クルマづくりを超えた社会提案
いよいよ開催が始まった「ジャパンモビリティショー2025」のトヨタのブースは、「カローラ・コンセプト」や「ハイエース・コンセプト」などの目玉車両の展示が話題になっていますが、ある種それらに負けないくらい話題を呼びそうな、かつてない雰囲気をもった車両の発表がありました。それがこの「IMVオリジン」です。
「IMV」とは“Innovative International Multi-purpose Vehicle”の頭文字をとったもので、「多目的で革新的な世界戦略車」という意味が込められています。この言葉は2004年にタイで導入が始まった車両から使われていて、発展途上国を中心とする多目的車として、現地生産を基本に年間50万台の規模で進められている一大プロジェクトです。
2023年には「IMV 0(ゼロ)」という、多くの目的にフィットするモジュール的な考えを実装した車両を発表していますが、今回のモデルはアプローチが根本から異なるものだそうです。
■メーカーのケアが届ききらない地域でのより安全な運搬手段とは?
このプロジェクトのチーフエンジニアを務めている太田さんに話をうかがいました。
今回発表された「IMVオリジン」は、origin=原点という言葉が示すように、荷物を載せて移動するというクルマの用途の根本に立ち返ったカタチを具体化したものです。開発の目的は、いまだ世界中に多く存在する発展途上の地域での運送を、より安全におこなえるようにするというもの。
たとえば、太田さんが直接出向いてリサーチや現地の労働者と対話をおこなったアフリカの農村部などでは、もう何年経っているのかもわからない2輪車に、人がもてないほどの大きな荷物を積んでの運送がいまだ日常的におこなわれているのが実状で、われわれが見れば危なっかしいと思ってしまうその光景は、現地の人達にとっては生活がかかっているのです。
しかも、そのような地域ではいちどに片道30kmという距離を移動するのがふつうで、常に荷物の脱落や故障のリスクにさらされながら、そういうトラブルに見舞われても誰の助けも期待できないという状況です。こういったリスクを伴う状況を改善して、生活が豊かになるようにもっと多くの荷物が運べる手段を提供できないかと考えた結果として辿り着いたひとつの提案が、この「IMVオリジン」というわけです。
それを実現するためにはなにが必要か? ということを考えたとき、荒れた路面を走り抜ける走破性とタフネスさを持ち、オートバイに代われる価格に抑え、そして故障した際に現地の設備で修理ができるつくりにする、という要件が浮かび上がってきました。
こうして進む方向が定まりましたが、この要件を満たすのはけっして容易ではありません。まずは故障のリスクを減らして価格も抑えられるように構造を徹底的にシンプルにすることからスタートです。そして今回の基調講演でトヨタ社長の佐藤氏が表明した「Mobility for All」のテーマが示す、さまざまな用途にフィットしていくクルマにしていくため、「未完成」というコンセプトが選ばれました。
「良品廉価」のテーマをもとに、常に最良のプロダクトを目指しているトヨタのエンジニアにとって、「完成させない」というアプローチは前代未聞でしょう。しかし、販売したあとでディーラーのケアが行き届かない地域で用途にフィットした運用をしてもらうという点を考えると、ユーザーそれぞれが使いやすいようにカスタムしやすい状態でお届けするのがベストではないかという発想に行き着いたそうです。
そして、ただ車両を提供するのではなく、現地で運用する人達といっしょになって、より使いやすく安心して乗れるモビリティをつくっていく、という姿勢をもって、現地の産業が発展していく手助けになるということも目標のひとつに掲げています。
