
この記事をまとめると
■欧州向け「スポーツライン」はFK8シビックタイプRの過激な外観を抑えた特別仕様
■小型リヤスポイラーや19インチホイールや防音材追加などで快適性も向上
■日本導入はなかったが「控えめなタイプR」を求める層には魅力的なモデルだった
見た目をトーンダウンしたオトナなタイプR
歴代シビックタイプRのなかでも、シリーズ5代目となるFK8型のデザインは突出して「主張が強い」と評されてきた。ボディのロワー部分を囲う赤いライン、あと付け感すら漂うフェンダーアーチの張り出し、ボンネットのエアスクープ、そして巨大なリヤウイング。遠くからでも「タイプRが来た」とわかるド派手な存在感は、好き者にはたまらないかもしれないが、普段使いのクルマとして選ぼうとすると踏み切れないという層を確実に生んでいただろう。その反動が、次世代モデルであるFL5型の売れ行きが極めて好調な遠因となっていると見ることもできる。
さて、そのFK8型シビックタイプRをベースとしながら「やりすぎ感」を幾分和らげたモデルが欧州に存在した。2020年3月に発表された「スポーツライン」である。
最大の変更点は、高くそびえるリヤウイングを廃し、小さなダックテール型スポイラーへと置き換えたことだろう。新スポイラーの下側にはボルテックスジェネレーターの突起が並び、単純に小さくしただけではなく空力的な機能も果たす設計になっている。加えて、ボディ下部に沿うレッドのアクセントラインも捨て去られたことも見逃せない。
ホイールは20インチから19インチへサイズダウン。タイヤはコンチネンタル・スポーツコンタクト6(標準タイプR)に対してミシュラン・パイロットスポーツ4Sを採用した。サイドウォールがソフトで高いグリップ力をもつこのタイヤへの変更が、乗り心地の改善に大きく寄与している。また、軽量化のために省かれていた防音材の一部がトランクルームとテールゲートに追加されており、NVHの改善も図られたほか、真紅のセミバケットシートはブラックをベースとしたものに置換された。
それでも、スポーツラインがゴルフGTIのような「おとなしいスポーツカー」に見えるかといえば、そうはならない。3本出しマフラーもフェンダーアーチも残っている。タイプRがタイプRであることは、ウイングを外しただけでは消えないし、攻撃的なエアロパーツが残されるだけに、大型のリヤウイングがあったほうが全体としてのルックスではバランスに優れるという見方もできるだろう。欧州ホンダの仕事をどう評価するかには評価がわかれそうだ。
エンジンは標準タイプRと共通の2リッターVTECターボで、320馬力を発生する。車重は防音材が追加されているにもかかわらず1380kgで変わっていない。足まわりのチューニングも同一で、シャシーの素性はそのままだ。新たに追加された「アクティブ・サウンド・コントロール(ASC)」は、スポーツモードや+Rモードでエンジンサウンドをスピーカー経由で強調する機能で、「車内の音響環境もモードで切り替えられる」という発想はスポーツラインならではの装備といえる。
スポーツラインは欧州市場向けのグレードであり、日本への正規導入はなかった。FK8世代のタイプRは現在生産を終えているが、「外見がもう少し控えめならば」という理由でFK8に踏み切れなかった人にとって、このスポーツラインはひとつの正解だったのかもしれない。
