
この記事をまとめると
■EVはSUVであっても常軌を逸した加速力をもっている
■ときにはレーシングカーを凌ぐ加速力を見せつけるがそれによる悪影響も多い
■自動車メーカーには「制御できる性能」と「使い切れる性能」の違いを見極めるべきだ
EVの強烈な加速力競争に「待った」を唱えたい
近年の電動車の進化には目を見張るものがある。SUVクラスになれば2.5〜2.8トンという重量級ボディをものともせず、0-100km/h加速は3秒台、なかには2秒台に到達するモデルまで現れた。ひと昔前ならフェラーリやランボルギーニなどの限られたスーパースポーツだけがもっていた動力性能のレベルを超えたパフォーマンスを、家族4〜5人がゆったり乗れるSUVで実現してしまっている。
その駆動力制御技術は素晴らしい。しかし、高性能BEVの試乗を重ねるほど、「これほどの加速性能が本当に必要なのだろうか」という疑問が強くなってきた。性能が高いことと優れたクルマであることは必ずしも一致しない。
先日試乗した高性能BEVのSUVは0-100km/h発進加速がわずか2.5秒だという。平均加速度にしても1.13Gになる。瞬間的には1.5G以上に達している場面もあるだろう。プロドライバーが急ブレーキを思い切りかけたときのような減速Gが、アクセルを踏み込むだけでビギナーでも高齢者でも、それが一般道で人混みのなかでも簡単に引き出されてしまう。
かつてF3000マシンでゼロヨン(0-400m)発進加速タイムを計測したことがある。そのときのタイムは9秒で、この場合の平均加速Gは1Gに過ぎない。それでも一般人には気絶するほどの瞬間的な力として感じられる。つまり、BEVの0-100km/h発進加速2.5秒はF3000マシンのスタートダッシュより強い衝撃力が乗員に伝わっているのだ。F3000マシンでは専用のシートを作り込み、ヘッドレストで頭部を支えている。それでも何回も繰り返すと鍛えられたレーシングドライバーの首でも負担がかかる。
それが高級車仕様のゆったりしたシートにくつろいだ姿勢で座り、ヘッドレストは後頭部からやや離れた位置にあり、身体を固定しない状態で突然大きなジャーク(変化速度/加加速度=加速度の変化割合の意味)がかかれば、一般人なら気絶しかねない。ジャークとは加速度がどれほど急激に立ち上がるかを示す物理量であり、加速度を時間で微分した値で表される。ジャークが予想以上に大きければ、乗員には衝撃として感じられてしまう。
実際、最近試乗した高性能BEVのSUV2車種では、この業界で長く仕事をしているベテランの記者でさえ目眩を感じて降車したほどだ。運転した自身も加速のたびに身体がシートに埋もれ、首が後方に反り返り、両手がステアリングから離れそうになった。これまで経験したあらゆる高性能マシン、レーシングカーよりも危険なレベルのジャークを感じさせられたのだ。
