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壁一面に名車が並ぶ! 入場料6700円「スイス交通博物館」の常識破りな展示手法

壁一面に名車が並ぶ! 入場料6700円「スイス交通博物館」の常識破りな展示手法

※本記事は雑誌「CARトップ2026年11月号」の記事を再構成して掲載しています

モンテヴェルディを追いかけ三度目の正直で好印象に

 スイス交通博物館を初めて訪れたのは2010年の10月。前年に世界の博物館探訪を思い立ってから2度目の海外取材行で、フランクフルトからラーデンブルグのDr.カール・ベンツ博物館から国境を越えてスイスに入国、バーゼルにあるパンテオン・バーゼルに続いて訪れたのがルツェルンにある同博物館でした。

 オートルートではなく”下道”を通って国境を越えたのですが、まるで高速道路の小さな料金所のような国境施設に驚いたことと、パンテオン・バーゼルで出会った素晴らしきクルマたちが印象的でした。一方のスイス交通博物館は壁面を交通標識で埋め尽くした自動車館の外観と、機械式立体駐車場のように収蔵車両を載せたパレットを壁一面に積み上げ、観客のリクエストによって1台1台をステージに持ち出して展示するシステムは印象的でしたが、”1台1台をじっくりと観て撮って”という当方の取材スタイルとは相いれず、失望感が残ったのも事実。

 その後、16年に閉館となったモンテヴェルディ博物館の収蔵車両がスイス交通博物館に移転収蔵されたことを知り、2024年にも訪れたのですが、なぜかモンテヴェルディが全車出張(?)中。車名の入ったパレットも空のまま、個別に設けられた特設展示場も、もぬけの殻。再び失意のまま博物館を後にした苦い記憶が残りました。

 ところが今回、今年4月にチューリッヒ空港を拠点にフランスのマニクールまで駆けまわった取材行でようやく、「三度目の正直が実現した」というわけです。壁面を交通標識で埋め尽くした自動車館の外観も、パレットを壁一面に積み上げる収蔵展示スタイルには何ら変わりはなかったのですが、特設展示場に展示されていたモンテヴェルディ各車との出会いや、パレットに載せられたモンテヴェルディも全車撮影できたことで同博物館に対する印象が一転。我ながら、この単純・能天気さにはあきれてしまいました。

かつてはクルマ先進国だったスイスの自動車史を網羅

 ということで収蔵展示車両についても紹介しておきましょう。まずはモンテヴェルディ。3階フロアには特設コーナーが常設され、クライスラーの5.7リッターエンジンを搭載したクーペやロードスター、シエラのロードスター、そして4輪駆動SUVのパイオニアとして知られるサファリ、レーシングチーム/コンストラクターのオニクスを買収してF1GPに参戦したモンテヴェルディ‒オニクスのGPマシンORE-2 DFVまで勢ぞろい。創始者であるピーター・モンテヴェルディの”世界”を再現していました。

1969-75 Monteverdi High Speed 375 L Fissore
モンテヴェルディがクライスラーの7.2リッターV8エンジンをオリジナルボディに搭載したコンプリートカーが、ハイ・スピード375シリーズ。375とは375馬力のエンジンにちなんでいる。こちらはフィッソーレ製のボディを持つ2ドアクーペの375Lだ。

  

1950 Monteverdi Special Balila(Replika)
ピーター・モンテヴェルディがクルマのセールスマンだった1950年代初めに、フィアットのライトウエイトスポーツカーとして知られるバリッラ(の残骸)をベースにして手作りしたワンオフモデルがスペシャル・バリッラ。これはオリジナルではなくレプリカだ。

  

1990 Monteverdi Onyx ORE-2
F3000時代にはマーチのワークス活動を担当していたトップチームのオニクス・グランプリは1989年にはF1GPに参戦を果たしたが、財政難に陥った。同チームをモンテヴェルディが買収し、翌1990年にはモンテベルディ-オニクスとしてGP参戦を継続するも状況は変わらず。その2シーズン目のマシンがORE-2。

  

1961 MBM Formula Junior Type D
ピーター・モンテヴェルディが1960年に初めて作ったレーシングカーがモンテヴェルディ・ビニンゲン・モータース(MBM)の名を冠したフォーミュラ・ジュニア。こちらは1961年に製作されたフォーミュラ・ジュニアのタイプDで、コスワースチューンのフォード・アングリア用エンジンを搭載。

  

1971 Monteverdi High Speed 375 C
やはりフィッソーレ製のオープンボディにクライスラーの7.2リッターV8エンジンを搭載した1971年式のスピード375C。Cはコンバーティブル(Convertible)にちなんだネーミングでフロントエンドを低めたデザインが特徴だ。

  

1976 Monteverdi Safari 4×4
米国のインターナショナル・ハーベスタ社がジープCJの競合車として開発したSUVのスカウトをベースに、モンテヴェルディが新たに開発したプレステージSUVがサファリ4×4。こちらは1976年式で、このカテゴリーのパイオニアとしてライバルに影響を及ぼしている。

  

1978-80 Monteverdi Sierra Convertible
ダッジ・アスペンやディプロマットをベースにフィッソーレが製作したボディに、クライスラー製の5.7リッターV8エンジンを搭載したモデルがシエラ。4ドアのセダンやエステートが知られるが、こちらは2台のみ試作されたコンバーチブル。

  

1993 Monteverdi Hai 650 F1
オニクス・グランプリを買収してF1にも参戦したモンテヴェルディが、そのシャシーをベースにしたスーパースポーツカーを企画。そのコンセプトモデルがハイ650F1。チューブラーフレームのミッドにコスワース製の3.5リッターV8(DFR)エンジンを搭載していた。

 また壁面に沿って積み上げられたパレットには20世紀初頭に登場したレーシングカーや電動のデリバリーバンまで収蔵展示。いまでは自動車メーカーが国内には存在しないスイスも、かつてはクルマの先進国のひとつであったことをアピールしていました。

1905 Rennwagen Dufaux

 ジュネーブにあったデュフォー自動車工場がゴードン・ベネット・カップに向けて1905年に製作したスイス初のレーシングカー。残念ながら実戦参加はかなわなかったが、12.76リッターの8気筒エンジンを搭載しており最高速度は150㎞/hを誇った。

  

1908 Tribelhorn Elektro-Personenwagen
チューリッヒ湖の北岸にあったフェルトバッハに本拠を構えていた自動車メーカーのトライベルホルンが1908年に製造した電気自動車。4輪車や3輪車などさまざまなバリエーションがあったが、こちらは4輪の2座オープンだ。

  

1931 ALFA-Romeo 8C 2300 Kompressor Chassis
独仏伊の3国に囲まれたスイスでは、ほかの自動車王国のクルマも多く見られた。こちらは1931年式のアルファロメオ8C2300コンプレッサーのローリングシャシー。一部のカウルワークの深紅とメカニカルなエンジンルームが大きな存在感を見せている。

  

1943 SIG EL 300 Elektro-Kastenwagen
スイスのニューハウゼンにあるスイス工業会社(SIG)で、自社内において使用するために開発された電気自動車がEL300。のちに市販された。これは1943年式の市販仕様のElektro-Kastenwagen(電動・販売バン)だ。

  

2022 Microlino Four-Wheeled Battery Electric Bubble Car
現実的な法令の状況は不明ながらスイスのイメージにはぴったりのマイクロカーが、スイスのマイクロモビリティシステムが製造する電動バブルカーのマイクロリーノ。1950年代のヒット作、イセッタを彷彿させるデザインはとてもキュートだ。

  

1982 Range Rover 5-Door Wagon Designed by Monteverdi
3ドアワゴンのみが生産されていたレンジローバーにモンテヴェルディが5ドアワゴンを提案。結果的にはモンテヴェルディが製作を担当する形で、4ドアモデルがレンジローバーのラインアップに加えられた。こちらは1982年式のレンジローバー5ドアワゴン。

 それにしても、自動車メーカーが存在しないそんなスイスに、こうした立派な自動車博物館があるのは羨ましい限り。素晴らしい自動車博物館と言えば先に触れたパンテオン・バーゼルも見逃せません。最初に訪れた時から時間が経ち、一部リニューアルされたようですが、いずれはこちらも紹介することにしましょう。

スイス交通博物館 the Swiss Museum of Transport

Haldenstrasse 44, CH-6006 Lucerne, Switzerland.
開館時間:10:00~18:00(冬季は10:00~17:00)
定休日:なし
入館料:33.30CHF(CHF=スイスフラン。邦貨換算約6740円)

  

 スイス交通博物館はスイスのほぼ中央に位置し、主要都市でもあるルツェルン市にあり、ルツェルン湖畔に面した風光明媚な立地環境も魅力のひとつ。大都市らしく仏独との国境に面したバーゼルからも、空の玄関口であるチューリッヒ国際空港からも直通の高速列車があり、鉄道でのアクセスも良好。ただし個人的にはクルマ一択で、バーゼルからは1時間あまり/100km弱、チューリッヒ国際空港からは1時間弱/70km弱のショートドライブだ。道路を挟んだルツェルン湖畔には有料(日本国内のパーキングメーターと同様のシステム)の駐車スペースが完備されている。

※本記事は雑誌「CARトップ2026年11月号」の記事を再構成して掲載しています

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