
※本記事は雑誌「CARトップ2024年10月号」の記事を再構成して掲載しています
すべての動的事象でマイナスに作用する車重
車重=車両重量とは、クルマのエンジンやサスペンション、ボディなどすべての重さを総計したものだ。車検証に記載される車両重量はドライバーが運転できる状態の重さで、燃料やオイル、冷却水などが、たんに部品の重さを合計したものに加えられている。さらに、車両総重量は最大乗車定員を加えた重量で、貨物車の場合は最大積載量も含めている。
車重はクルマのさまざまな性能に影響を与える。それはクルマが運動する物体である、というニュートンの運動力学で、走行中のクルマが持つ運動エネルギーE=1/2mv²で表されるように、m(質量)と速度が大きく影響するからだ。mに重力加速度を掛けた値が重量である。つまり、走行中は車速が高いほど、また車重が重いほど大きな運動エネルギーを持ち、減速や衝突時のエネルギーも大きくなるのである。
またF=mα(運動の法則)に定義されるように、質量の大きな(重い)クルマほど慣性が大きくなる。止まっているクルマを動かす、あるいは走行中のクルマを減速させる際に慣性の大きさはマイナスに作用するわけだ。さらに、旋回中のクルマはmv²/rの遠心力を受け、重いクルマほど、車速が高いほど、そして旋回半径が小さくなるほど大きな力を受ける。
これらのことから、クルマは走る、曲がる、止まる、あるいは衝突するといった、すべての局面で車重が影響することがわかっているので、自動車メーカーは懸命に軽量化に取り組んでいるのである。
軽量化を阻む衝突安全基準への対応
ところが、近年のクルマを見てみると、車重は軽くなるどころか、どんどん増加する傾向にある。
かつて1トン以下であれば軽量と言われた時代のスポーツカーは、”ライトウエイトスポーツカー”と呼ばれ、運動性に優れ、多くのドライバーを魅了した。古くはロータス・ヨーロッパ、ケーターハム、そして最近では990kgに仕上げられたマツダ・ロードスター990Sが軽さを活かした走りで注目された。
一方、一般的なモデルの車重の変遷を見ると、初代トヨタ・カローラは710kgであったが、最新のモデルはハイブリッド仕様のセダンで約1.4トンある。軽自動車も年々重くなっていて、半世紀以上前のホンダN360の頃は500kg前後であったのに、最新のN-ONEでは約900kgと、いずれも倍近くまで重量が増加した。
自動車メーカーは軽量化に取り組んでいるはずなのに、なぜ年々重量が増えてしまうのか?
ひとつには年々強化される衝突安全規則に適合させるため車体フレームの強化やエアバッグの追加装備などが避けられないことが挙げられる。衝突試験も前面(フルラップ)衝突、左右オフセット衝突、側面衝突、後方衝突など、要求項目は年々増えており、衝突試験時の速度も引き上げられている。シートベルトプリテンショナーやシートアンカーの強度なども強度を増す必要があり、車重増加は今後も避けられないだろう。
さらに、500馬力を超えるようなガソリン仕様のハイパフォーマンスカーも、4輪駆動システム、4輪操舵システムなどで走行性能を高めながら強固な剛性も必要で、重量増加は避けられない。さらに言えば、電動モーター駆動による高トルク特性の実現のために大型の駆動用バッテリーを必要とする電動モデルも車重を増す傾向にある。
コスト増もいとわない高性能車の軽さの追求
車重増という課題に対し、自動車メーカーは車重軽減に取り組む技術開発を活発化させている。従来の鉄に代えてアルミニウムやマグネシウム合金を多用。また、カーボン製パーツを導入するなどしている。
たとえば、ランサー・エボリューションが採用したオールアルミ製のルーフパネルは鉄製と比べて4kgほど軽量化に成功している。このわずか4kgの軽量化のためにアルミルーフと鉄の車体への結合法など、多くの難題に立ち向かわなければならなかった。車体デザインを考慮し、鉄製のアウターパネルではなく樹脂製の軽量なアウターフェンダーで架装し、樹脂製バンパーとラジエータグリルを一体化して軽量化するなど、涙ぐましいほどの努力が各所からうかがえた。
また、自動車にはサスペンションやプロペラシャフトなどの可動部も多い。物体が動けば運動エネルギーや慣性が発生するため、こうした可動部も軽量化しながら剛性を高めなければならない。アームを中心とするサスペンションパーツはつねに動いている。そのため乗り味や走行性能に大きく影響するのだ。
一般的なクルマの場合は鉄製のアームを採用し、重いけれど頑丈であるというメリットを活かしている。しかし、軽量化のためにサスペンション可動部であるアームを中心に、アルミ合金化することが高性能車の常識となった。鉄製のアームより軽量なアルミニウムの鋳造合金を使えばコストは数倍に跳ね上がる。それでも﹁性能追求のためには必要﹂と判断されるモデルもあれば、コスト増を嫌って見て見ぬふりをしているモデルもある。
