
昔は長時間のドライブで腰や背中が痛くなった
たかがシート、されどシート。作るだけなら簡単で、枠にクッションでも乗せておけば形にはなる。もちろんそれではダメだから悩めるわけで、自動車の進化はシートの進化でもあると言っても過言ではない。そもそもクルマのシートは何が問題かというと、長時間座り続けるだけでなく、姿勢がほぼ変わらないことだ。
家庭や職場でも長時間座り続けることはあっても、つらくなれば伸びをしたり、体をずらしたり。場合によっては立って座るのをやめることもできる。つまりリセット可能だ。一方、クルマではお尻をモゾモゾする程度。立ち上がるにはクルマを停めて休憩するしかない。年輩の方なら、1時間もすると腰や背中が痛くなった覚えがあるだろう。
だが、いまや苦痛を感じることは劇的に減っている。それだけでも大きな進化だが、だいたい2000年あたりを境に構造自体が変わってきた。
それまでは鉄製のフレームにS字のスプリングを張り、その上にシート形状のスポンジを乗せて表皮を被せたものが一般的だった。肝心のスポンジは低反発などではなく単なる硬めのスポンジで、Sスプリングともどもヘタってくるのも問題だった。そのため街なかにはシートのオーバーホール店があったほどだ。
現在はスプリングがなくフレームに柔軟性のあるベースを付け、その上にさらにウレタンパッドを配置する構造へと変わっている。硬さや座り心地は適材適所で複数のウレタンパッドを組み合わせて対応している。形状も人間工学を駆使したもので、面で体を支えるようになっている。
最近の研究では骨盤の向きや位置の最適化、固定化が重要な要素であることがわかってきていて、ヒザを重点的に支えるなど分析はかなり進んでいる。
とくにユニークなのは日産で、研究成果をゼログラビティ(無重力)シートとして多くの車種に積極的に採用している。ルーツは2011年に発表されたスパイナルシートにさかのぼる。スパイナルとは背骨や脊髄という意味で、NASAが測定した中立姿勢に着目したシート作りを目指した壮大な技術だ。
海外はイスで日本は畳と文化が違うとシートも違う?
各メーカーも力を入れていて、昔に比べると劇的な進化と言っていいが、シートの質という点で昔から比較されるのがヨーロッパ車のシートだ。ドイツ車は硬めでしっかりと体を支えてくれて疲れ知らず。フランス車やイタリア車は肉厚なクッションでフンワリと絶妙な座り心地など、お国柄があるのも特徴だ。
シートの作りや出来の違いを見ると、海外はイスの文化、日本は畳の文化だからと言われるが、過去の座り心地を見るとあながち間違っていないと思う。
海外モノで忘れられないのが1980年代に広まった、ドイツからやってきた憧れのブランド、レカロだ。「座ると最初は硬いけど、次第に体がなじんできて疲れない」というのは画期的で、現在もスポーティ/スポーツシートの世界で高い評価を受けている。
スポーツシートについて軽く触れておくと、バケットシートは一般のシートとは違い、乗り心地よりも運転時に身体をいかにしっかりと受け止めるかを重視しており、シェルと呼ばれる骨格の強度なども重要になる。質の悪いシートだとブレたり、衝突時にシェルが割れて危険だ。レカロに加えて最近では日本のブリッドも双璧となっているが、シートを交換した場合、車検ではこの2社しか認められないのは、シートに安全性が重視される好例だろう。
話を戻して、1990年代までは試行錯誤を続け、海外メーカー同様の乗り心地と疲労感の少なさを掲げて大きく進化した日本のシートだが、海外と比較するとどうだろうか。某メーカーのシート開発者によると「かなり近づいたけど、どうして海外メーカーのシートがいいのか、感覚や経験的なところもあるのですべてわかったわけではない」というから、やはりシートというのは奥が深い。
