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いくら「ゴッツいブレーキ」を付けてもクルマは止まらない! レーシングドライバーが語るクルマの制動距離を司る意外な要素 (1/2ページ)

いくら「ゴッツいブレーキ」を付けてもクルマは止まらない! レーシングドライバーが語るクルマの制動距離を司る意外な要素

車重・前後重量配分も制動性能に大きく影響

 制動性能はブレーキシステム単体で決まるものではない。最終的に車両を停止させるのはタイヤと路面の摩擦であり、その上限は摩擦係数μと接地荷重Wの積で決まる。ブレーキがどれほど強力でも、タイヤの限界を超える制動力は発生させられない。乾燥アスファルト路面では強力な制動力を得られるブレーキシステムも、氷の上では止まらなくなってしまうのは物理学的必然ということだ。

 車重は制動にも大きく影響する。質量が増えれば運動エネルギーはそれに比例して増加するため、同じ速度でも停止するために必要なエネルギー処理量が増える。一方、車重増では接地荷重も増加して理論上の最大制動力は増すが、タイヤの発熱やブレーキの熱容量が不足すれば性能は維持できない。

 減速時に前方に荷重移動が生じる点にも注意を向けたい。仮に重心高を0.55m、ホイールベースが2.7m、減速度を0.8Gとすると、車重1500kgの場合の荷重移動は計算上、約2400Nとなる。これにより前輪のグリップは増加し、後輪は減少する。適切な前後配分が行われていなければ後輪が先にロックしてスピンの原因になるため、近年のクルマはEBD(エレクトリック・ブレーキ・デストリビューション)を標準装備している。

制動安定性に欠かせないブレーキ本体以外の要素

 制動安定性に直結するものとして車体剛性もある。剛性が低ければブレーキング時にボディがネジレて各輪の接地荷重が不均一になる。これによりABSの介入が早まり、制動距離を延ばす結果になる。高剛性ボディはタイヤに均等に荷重を与え、限界付近の安定性を高めることができるきわめて重要な要素なのだ。

 サスペンションジオメトリーもまたアンチダイブ特性を通じて制動力に影響する。適切なジオメトリーは制動時の過度な前傾を抑え込み、サスペンションストロークを有効に使う。過大なダイブは底付きやアライメント変化を招いて接地性を損なう。

 さらに空力の影響も高速域では顕著だ。ダウンフォース(=車体を下方に押しつける力)は速度の二乗に比例するため、200km/hでは100km/hの4倍の効果を持つ。たとえば3000Nのダウンフォースが発生した場合、およそ300kgの荷重増加に相当し、制動限界は大きく向上する。

 言うまでもなくタイヤも最終的な制動性能を決定する最重要要素のひとつである。一般的なコンフォートタイヤの摩擦係数が0.7から0.9程度であるのに対し、ハイグリップタイヤでは1.1から1.3に達する。ただし、温度依存性が大きく、適正温度域から外れると性能は大きく低下する。したがって、ブレーキ性能を語る際にタイヤ性能を切り離して考えることはできない。

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