
この記事をまとめると
■トラクターのタイヤは特殊な構造をしている
■空気圧は乗用車と異なりかなり低めに使うほうが効率がいいとされている
■1本あたりの価格は高額だが寿命が比較的長いのが特徴だ
乗用車とは異なるトラクターのタイヤ
公道を走る乗用車やトラック・バスに装着するものとは、まったく異なる進化を遂げたタイヤがある。それが、農業機械であるトラクター用のタイヤだ。一見すると、ただ泥に強そうなオフロード向けの巨大なタイヤに思えるが、そこには過酷な未舗装路を走破するための特性や、驚きのメカニズムが隠されているのだ。
トラクタータイヤの最大の特徴は、トレッド面に配置された「ラグ」と呼ばれる大きな山状の突起だ。乗用車用タイヤが、滑らかなアスファルトを効率よく捉えるための細かい溝(サイプ)をもつのに対し、トラクターのそれは泥や土をガッチリと掴んで掻き出すために、深く無骨な溝が刻まれている。
乗用車やトラック・バスのタイヤは、舗装路における高速走行・静粛性・耐摩耗性を追求し、高い空気圧(乗用車で230kPa前後、トラックで700~900kPa程度)で形状を維持する。しかし、トラクターの主戦場は田畑などの軟弱地盤だ。そのため空気圧は100kPa以下という極めて低い値に設定されることが多い。タイヤを意図的にたわませることで、接地面積を広げて泥に沈み込むのを防ぐのである。
トラクターを横から見たときに誰もが抱く疑問が、「なぜ後輪だけがこれほど巨大なのか」という点だろう。これには明確な物理的・実用的な理由がある。
・強力な牽引力の確保
トラクターは単に走るだけでなく、背後に何トンもの重い作業機(耕運機や播種機など)を装着し、それを引っ張りながら土を耕す。駆動輪である後輪を大きくして泥との接触面積を増やすことで、強大なトルクをスリップさせずに地面に伝えることができるのだ。
・接地圧の分散(土壌の保護)
車重と作業機の重さの大部分が後輪にかかる。もし後輪が小さければ、その重さで土を強く踏み固めてしまい、作物の根の成長を妨げてしまう。タイヤを巨大化させることで接地圧を分散し、土の柔らかさを守っているのだ。
・小まわりの利く回頭性
逆に前輪を小さく抑えることで、狭い田畑の端でも鋭く舵を切れるよう、十分な切れ角(回頭性)を確保している。
国内では、最大手のブリヂストンが高いシェアをもつ。また、「オーツタイヤ」ブランドを引き継いだ住友ゴム工業のファルケンも人気だ。海外勢では、世界的なタイヤブランドであるミシュランや、農業・産業用タイヤで世界的にシェアをもつBKT(インド)などが広く流通している。
購入価格はサイズによって、文字どおり桁が変わる。小型トラクターの前輪用であれば1本あたり1万円~2万円程度で購入できる。しかし、巨大な後輪用ともなると一般的なサイズでも、1本が5万円~15万円程度する。大型の輸入トラクター用であれば1本が30万円~50万円、あるいはそれ以上するものも珍しくない。
取り換え頻度(寿命)は走行距離ではなく、「摩耗状態」と「年数」で管理するのが一般的だ。摩耗状態は、ラグの高さで測る。新品時の3分の1程度まで減ると、交換が必要になる。普通に使用していれば、10年前後もつのだそうだ。乗用車などの車両は高速走行による熱変化が摩耗を早める原因なのだが、トラクタータイヤにはそれがないから長もちする。
ただ、紫外線によるゴムのひび割れには注意を払う必要がある。乗用車とはまったく異なる思想で設計されたトラクターのタイヤ。日本の食を文字どおり足もとから支えるその無骨な姿には、機能美という言葉がよく似合うのではないだろうか。
