
三菱は「大きくならない」ことを武器にできるか
三菱自動車の新たな中長期経営戦略について、岸浦恵介社長から話を聞く機会があった。そこでもっとも印象に残ったのは、「トヨタやBYDと同じ土俵では戦わない」という明確な意思である。
中国メーカーが世界市場へ急速に進出し、自動車産業の競争軸がEV、SDV、AIへと移りつつある。普通に考えれば、自動車メーカーは規模を拡大し、開発投資を増やし、グローバルで販売台数を伸ばさなければならない。しかし三菱が選んだのは、その逆方向ともいえる戦略だったと筆者は思った。
「地域」と「ブランド」に集中する。
これは最近のスズキにも通じる発想だ。世界中で同じクルマを大量に売るのではなく、自分たちが理解している市場と顧客に深く入り込む。三菱の場合、その起点となるのがASEANであり、そこから中東、中南米などのグローバルサウスへ広げていく。
岸浦社長は世界の市場を「重点国」「育成国」「再建国」に分類する。重点市場として日本、フィリピン、ベトナムなどを位置づけ、成長市場として中東や中南米を見据える。一方、競争環境が厳しいオーストラリアでは、新型パジェロを投入して巻き返しを図る。
各地域の価値を見つける
ここで重要なのは単純な地域別販売戦略ではない。その地域で、何がクルマの価値になるのかを見極めることではないだろうか。
ASEAN、中東、中南米などでは、中国メーカーによるEV攻勢が強まっている。しかし、クルマを使う環境を考えれば、最新のEVであることだけが価値になるわけではない。豪雨や洪水、未舗装路。長距離移動。家族を乗せて悪路を走る。場合によっては7人を乗せる。
そこで重要になるのは、航続距離や大型ディスプレイだけではない。「壊れない」「どこでも走れる」「安心して家族を乗せられる」。こうした信頼性そのものが商品価値になる。
三菱には、この領域で長年積み重ねてきた経験がある。エクスパンダー、エクスフォース、デスティネーターなどがASEAN市場で支持されている背景にも、地域ごとの生活環境や道路事情を踏まえた商品作りがある。
中国メーカーが最新のデジタル技術を武器に攻め込んできても、現地の生活や道路環境まで理解し、それを商品に反映するには時間がかかる。
そこで三菱が打ち出すブランドの核が「タフネス・ミツビシ」なのである。
