「タフネス」は古い価値なのか
面白いのは、このタフネスという価値が、いま再び注目されていることだ。ASEANを中心にクロスカントリーSUVによるラリーが盛り上がっている。日本でも全日本ラリー選手権のラリー北海道ではXCRクラスが設定され、ランクルやトライトンなどが同じコースを走る。
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三菱には、パジェロ、ランサーエボリューション、そしてダカールラリーという強烈なモータースポーツの歴史がある。もちろん、これを単なる懐古趣味にしてしまえば意味がない。
重要なのは、過酷な環境でクルマを走らせることで蓄積してきた技術と経験を、現代のクルマにどう転換するかである。その意味で、三菱にとって電動化は「これまでの技術を捨てること」ではない。むしろ逆なのだ。
電動化によって、三菱らしい走りをさらに進化させる。
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三菱が長年磨いてきた四輪駆動技術と、モーターによる高精度な駆動力制御は相性がいい。モーターなら前後、左右のトルクを極めて細かく制御できる。その思想を具現化してきたのがS-AWCであり、アウトランダーPHEVはその代表例だ。つまり、三菱にとって電動化とは、内燃機関時代の価値を否定するものではなく、「走破性」という三菱のDNAを、電動技術によって再定義するための手段なのである。
AIだけでは「よいクルマ」はつくれない
ここから先は、SDV時代を考えるうえでも興味深い。岸浦社長が示した考え方のひとつは、AIだけでは車両制御は完成しないということだった。ラリードライバーやテストドライバーが長年培ってきた、「この路面なら、クルマはこう動くべきだ」「ここでこの程度のスリップなら、まだ許容できる」「この姿勢なら、ドライバーは安心してアクセルを踏める」といった知見を、ソフトウェアへ落とし込んでいく。
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これは、フィジカルAI時代の自動車産業にとって極めて重要なテーマだと思う。AIは大量のデータからパターンを学習することができる。しかし、「よい走りとは何か」「安心できる挙動とは何か」という価値そのものが、データのなかから自然に生まれてくるわけではない。そこに、日本メーカーがもつ技術資産をAI時代の競争力へ変える鍵がある。
三菱流の競争シナリオ
2017年、BYDが新型PHEVを開発する際、私はBYDの依頼で中国本社のテストコースに招かれた。当時、ベンチマークとして使われていたのがアウトランダーだった。そこで求められたのは「清水和夫流儀でBYDのダイナミクスを評価してほしい」ということだった。振り返れば、当時の三菱には、中国メーカーが研究対象として見るだけの技術的な資産が確かにあった。
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問題は、その資産をどう現在の競争力に変えるかである。
パジェロは「ブランド再構築」の試金石
その意味で、新型パジェロは単なる新型SUVではない。「パジェロという名前を裏切らない性能を目指す」という岸浦社長の言葉には、三菱ブランドそのものを再構築しようとする意図が見える。
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トヨタのように巨大化する必要はない。BYDのように圧倒的な開発速度とコスト競争力で世界を席巻する必要もない。三菱には三菱の戦い方がある。
ASEAN、中東、中南米など、長年築いてきた市場との関係を深掘りする。そして、「タフネス」というブランド価値を、四輪駆動、電動化、ソフトウェア、AIによって現代的に再定義する。三菱自動車にとって、その答えが「タフネス」だとするなら、それは決して古い価値ではないだろう。人間が過酷な環境でクルマを使い、壊し、走らせ、磨き上げてきた経験そのものが、新しい価値の創造になりそうだ。