クルマの電子化でディーラーメカニックが育たない! 古いクルマを直せない若手が現場に増加中

修理よりもユニット交換などクルマ自体の作りが変化

「今どき若いメカニックに任せてもクルマが直らない」という話を聞いた。あまりに漠然としていたので、新車販売業界に詳しいひとに聞いてみた。

法定点検などの定期点検に関しては法規などでやることは決まっていますし、どのクルマでもチェックする箇所に大きな違いはありませんので、点検及び整備は若手であろうと問題なく作業をすることができます」と言うことだったが、続けて、「お客様から『ちょっと●●から異音がする』などと不具合があった場合は少々勝手が違ってきます」とした。ディーラーメカニック

 今どきのクルマにはコンピュータ制御ユニットが搭載されているのは当たり前。そのユニットには不具合情報も記録されるので、お客から不具合の指摘があると、診断機でコンピュータの記録を読み取るのは若手メカニックでなくても作業手順は変わらない。その後診断に従い不具合をなくす作業を行うのだが、電子制御化が著しいのが今どきのクルマなので、不具合のあったユニットを修理するのではなく、ユニット交換で対応することも多い。ただケースによっては交換してもすぐに不具合が再発し、保証期間中ならばユニット交換を繰り返し続けなければならないこともある。レアケースであり、リコールするほどではないことも多い。こうなると、“ディーラーに出しても直らない”ということになってしまう。

 少々昔に聞いた話では、ユニット交換を続けてきたが保証期間終了が近くなり、このまま保証期間が終了すればお客が交換費用を払う”有償修理”になってしまうので、その当該車両を担当セールスマンが買い取って自分で乗り、不具合の出ない新車に買い直してもらったとの話も聞いたことがある。

 専門教育を受けて国家資格を取得したひとが、若手メカニックとして入社してくることになる。その後も新入社員時など社内研修を繰り返すことで、最新メカニズムへの対応など技術を磨くことになる。ただ教材となるエンジンなどはもちろん自分たちの扱うメーカーのものとなる。また社内検定制度が設けられており、最上位の資格を取得すると独立して整備工場の経営が出来る知識や資格が取得できるようになっていると聞いたことがある。

 酷な話でもあるが、新車を整備したり修理に関する作業時間やそれに伴う工賃は、担当メカニックの年齢や役職に関係なく同じ。ただメカニックの給料は年功序列が崩壊しているとされる今でも、年長者ほど高めになっている。

 そのため、メカニックとして入社した時点で、メーカー系整備学校を卒業したとひとを中心に、将来はフロントマン(整備や点検、修理についてお客対応する役目のひと)や工場長などが約束された幹部候補生と、一定年齢に達したらセールスマンへ転籍予定となるひとに分けられることもあり、現場で作業にあたるメカニックは若手がメインとなる。

 過去には一定年齢に達し、社内検定でも最上位の資格まで取得し、その後退職して整備工場を立ち上げ、勤務していたディーラーの協力工場になるケースもあった。

 そんななか若手メカニックをフォローするのが、フロントマンや工場長となる。いくら学校での実習や入社後に研修を受けても、現場で実践的に学ぶ(場数を踏む)という部分は多い。しかし現場のメカニック間の年齢差は極端に離れていないので、現場での実践経験はそんなに変わらない。そこで経験豊富なフロントマンや工場長のアドバイスが重要となってくる。 

 結構古い話になるが、初代クライスラー・ネオンに乗っていたひとがオーディオをグレードアップするので専門ショップに持ち込んだそうだ。そこのスタッフは若手とはいえ高い技術力が有名だったが、何やら作業で悪戦苦闘していたそうだ。そしてそこの社長に若手スタッフが相談したところ…、「このスピーカー配線は60年代のクライスラー車のままだね。これじゃわからないはずだ」とホイホイと社長自ら作業をしたそうだ。

 90年代後半のアメリカ車は見かけについては現代風だったが、メカニズムの一部が60年代のころのままという車種も多かったようだ。別の話では個人輸入で購入したアメリカ車(新車)を街なかの修理工場に整備に出したら、日本語のマニュアルもなく、若手はお手上げだったのに、ベテランのメカニックが「懐かしいねえ」とマニュアルもないなか作業を行ったとのこと。

 話をディーラーに戻すと、60年代とか70年代のクルマを大事に乗っている”名物ユーザー”は結構なディーラーで少ないながらもいるそうだ。あるディーラーでは農家のおかみさんが40年ぐらい前に購入した小型トラックを乗り続けており、メンテナンスに入ってくるのだが、現場のメカニックがエンジン始動に四苦八苦しているなか、そのおかみさんが一発でエンジンを始動させたという話を聞いたことがある。

 このような貴重な車両が入庫することで、フロントマンや工場長などのベテランからアドバイスを受けながら勉強することもあるそうだ。また最近ではディーラーが過去の取り扱い車を所有しているだけでなく、レストアするなどして積極的に展示したりするケースも多い。このレストア作業を自前を若手メカニックにやらせることで経験を積ませることもあるようだし、モータースポーツにディーラー単位で参加し、レーシングメカニックとして腕を磨かせるディーラーもあると聞く。

 旧車に関してはどれだけディーラーが自覚して勉強する機会を設けるかが、直接利益には関係ないものの、技術の伝承とともに全体のレベルアップ効果を高めるといえるだろう。

 ただ新車については販売不振が続くなか、売れ筋モデルがかなり偏っており、今までどおりに現場で覚えるといっても、車種バラエティも機会も少なくなっているのではないかと心配してしまう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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